人生なにが起きるかわからないから楽しい。『ブルックリンでオペラを』

『ブルックリンでオペラを』 4月5日（金）より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋他全国公開

人生で一度決めたことをひっくり返すようなことはだれにとってもなかなか勇気のいる決断だ。だけど、そうしてまでも変えたいと思えるなにかに出逢ったとしたら......というストーリー。

ニューヨーク、ブルックリンに暮らす夫婦、パトリシアとスティーブン。人気精神科医の妻パトリシアは掃除が大好きな潔癖症。一方、人気の現代オペラ作曲家の夫スティーブンは人生最大のスランプに陥っていた。ある日、愛犬と行く当てのない散歩に送り出されたスティーブンは、とあるバーでユニークな船長のカトリーナと出会う。彼女に誘われて船に乗り込んでみると、予想だにしない出来事に襲われ！？その想定外の出会いが、やがて夫婦の人生を劇的に変えてゆく──！

パトリシアを演じるのは、私も大好きな女優の1人！『プラダを着た悪魔』で全世界にその名を知られる大スターとなり、『レ・ミゼラブル』でアカデミー賞®︎に輝いた実力と名声を兼ね備えた俳優、アン・ハサウェイ。本作の脚本に惚れ込み、出演すると共にプロデューサーも務めている。セレブな暮らしを送りながら修道女に憧れるアンビバレントなパトリシアの心情を、ユーモアをきかせて演じきった。

数々の作品を大ヒットへと導いてきたアン・ハサウェイがタッグを組んだ監督は、『50歳の恋愛白書』などを手掛けたロマコメの名匠レベッカ・ミラー。ピュリッツァー賞、トニー賞など栄えある賞を受賞したアメリカを代表する劇作家アーサー・ミラーを父に持ち、俳優、小説家、監督として才能を発揮してきた。そんなレベッカ・ミラーを深くリスペクトするアン・ハサウェイは、20年前にミラーの別の映画でオーディションを受けて採用されなかったという過去があり、本作で遂に夢を叶えた。

作曲家としての才能以外は欠点だらけだが、人間味あふれる言動を愛さずにはいられないスティーブンには、大旋風を巻き起こした大ヒットTVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」でゴールデングローブ賞と4度のエミー賞を受賞したピーター・ディンクレイジ。不器用だけど、どこか憎めないスティーブンを演じた。

人生の転機となる出来事は恋愛、仕事、日常生活どこに転がっているかわからない。
仕事がうまくいかないとき。苦しみながらも責任感やその場のしがらみにがんじがらめになることもあるが、仕事って苦しんでまでする必要がないようにも思う。本作ではスティーブンの作曲家という特殊な職業ゆえの苦労を垣間見ることになるのだが、解消された先に完成した作品をみるときっとその景色が見たくて苦しくてもやめなかったんだと理解できた。
スランプに悩みながら愛犬との散歩でリフレッシュしていた最中に起こるという起承転結の起の部分からユニークな滑り出しだった。

一度決めたら変え難いもののひとつとして、"夫婦関係"がある。
人間関係ともいえるのだが、最初と違う方向に月日の流れと共にお互いが歩みはじめてしまっていたとしたら、気づいた時にはその溝は大きくなっていて修復するには難しいことも。この精神科医と作曲家夫婦の行き着く先はどこなのか、みんながハッピーになれる終着点を探しながら物語を見守っていた。

「人生なにがあるかわからない」という台詞を耳にする機会もあると思うが、まさにこの作品で出会った出来事すべてがその言葉そのものだった。登場人物全員、最初と最後では大きく人生が変わっている。そこが見所でもあり、脚本のうまさだったと思う。
多彩な才能が幾重にもハーモニーを奏でるような本作、ぜひ劇場で楽しんでほしい。

（文／杉本結）

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