もやもやレビュー

もしも大災害が起こったら『コンクリート・ユートピア』

『コンクリート・ユートピア』 全国公開中

第48回トロント国際映画祭で「『パラサイト 半地下の家族』に続く傑作」と高く評価され、第96回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表作品にも選出された『コンクリート・ユートピア』。

世界を襲った未曾有の大災害により一瞬で廃墟と化したソウル。唯一崩落しなかったマンションは、生存者たちで溢れかえっていた。無法地帯となったいま、マンション内でも不法侵入や殺傷、放火が発生。危機を感じた住民たちは主導者を立て、居住者以外を追放し、住民のためのルールを作って"ユートピア"を築き上げることに。住民代表となったのは、902号室のヨンタク。職業不明で冴えないその男は、権力者として君臨したことで次第に狂気を露わにする。そんなヨンタクに傾倒していくミンソンと不信感を抱くミョンファ。極限の状況下でヨンタクの支配が頂点に達したとき、思いもよらない争いが勃発する。そこで明らかになった、その男の本性。果たして男の正体とはー。

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マンションの臨時住民代表・ヨンタクを演じるのは、『G.I.ジョー』などハリウッドでも活躍し、『非常宣言』『白頭山大噴火』などディザスター大作での名演も記憶に新しいイ・ビョンホン。何の取柄もない男が権力を手にしたことで狂気を放ち、豹変していくさまを体現する。
「梨泰院クラス」や『ミッドナイト・ランナー』などで日本でも熱狂的な人気を誇り、『マーベルズ』でハリウッドデビューしたパク・ソジュンが誠実な公務員ミンソンを熱演。ミンソンの妻ミョンファを映画にドラマに大活躍を見せるパク・ボヨンが演じる。

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本作、次はいつどこで大災害が起こるのかと地震のニュースを見るたびにビクビクしている日本人にとってはとてもリアリティのあるストーリーだったと思う。
自分たち以外の生き残りの場所にいく手段もなく、助けがこない遮断された空間に取り残された時、生きていくために必死になる人々の姿は野生に返ったようで恐ろしくもあり、リアルだった。自分と大切な家族が生き残るためになんでもやる。綺麗事を言っているだけでは死んでしまうという状況がどんどんと追い詰めていく様子もうまく描かれていた。法や秩序が失われた世界で、自分たちが生きていくための新しい正義を作り出すユートピアの人間は、ずる賢く醜かったけれどラストの展開に救われた。

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もしもが詰まった本作。新年に起こった震災により、日本人はこの映画のようなことに絶対にならない助け合いの心がつまった国であると再認識した。
本作、震災にあわれた方は、フィクションとわかっていても辛い内容であるかもしれません。私自身も、過去に阪神淡路大震災で被災した経験があります。時間はかかりますが復興できます。1日も早く復興できますように。

(文/杉本結)

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『コンクリート・ユートピア』
全国公開中

監督:オム・テファ
出演:イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン
配給:クロックワークス

2023/韓国/130分
原題:콘크리트 유토피아/英題:Concrete Utopia
公式サイト:https://klockworx-asia.com/CU/
予告編:https://youtu.be/EJOl9VOdY74
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