もやもやレビュー

クヨクヨすると合計26『モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン』

モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン [Blu-ray]
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 新年あけまして、と挨拶をしたいところではあるが、元日からのあれこれでなかなかそういう気分でもいられない。お見舞い申し上げます。

 こういうとき、気持ちを落ち着けるために、こうしたら良いああしたら良いというアドバイスのようなものをしばしば目にする。中でも映画を見て気分転換しましょうというのは、かなり頻度の高い方法のように思う。が、関係ないものに触れて気分転換せよと言われても、気分は人によってまちまちだろうし、現状把握のためずっとニュースを見ていた方が安心するという方もいるだろうし、いずれにせよ今を乗り切るための適切な方法には個人差があり、確実なアドバイスなどは存在しない。

 そういう前提の上で今回取り上げる映画は、イギリスのコメディグループ「モンティ・パイソン」が脚本主演(監督もメンバーの一人テリー・ジョーンズが担当)した一本『モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン』(1979)だ。

 物語はある夜、東方の三博士(あるいは三賢者、三賢人)が星に導かれ、赤ん坊が生まれたばかりの家へとやってくるところから始まる。その子の名はブライアン。三博士はブライアンを祝福し贈り物を捧げるが、家を出てすぐに間違いに気付き、贈り物を奪い返して隣家の赤ん坊=イエスを改めて祝福する。

 時は流れて約30年後、舞台はイエスのみならず多数の自称預言者だらけのエルサレム。闘技場の売り子として糊口をしのいでいるユダヤ人のブライアンは、ローマ帝国の支配に抗う過激派の一派に加入。だがそれを機にローマ兵に追われる立場となってしまい、そこら中にいる預言者のふりをしてやり過ごそうとした結果、その場しのぎの出鱈目な説教を勝手に曲解し拡大解釈し感化された民衆に救世主として祭り上げられてしまう。

 と、モンティ・パイソンの作品としては例外的に一本の筋の通ったストーリーがある作品なのだが、モンティ・パイソンは基本的には長年コントを作り続けてきたグループ。本作でも場面ごとにコント的なバカバカしいやりとりが描かれ、一般的な映画として見ると少々困惑してしまいかねない作品でもある。

 困惑してしまう理由としては他にも、さまざまなキャラクターの大半をモンティ・パイソンのメンバーが手分けして演じている、というのもある。さっきまである役を演じていた人物が、次の場面では異なる役を演じていたりして、しかし複数の役柄を演じていること自体は別にギャグとしては扱われていない(「あいつ俺にそっくり!」みたいなことは一切ない)、といった具合だ。主人公ブライアン役のグレアム・チャップマンですら、冒頭に登場する三博士の一人や、ピラト総督の友人ビッガス・ディッカス(日本語吹替版ではデカマラス。意味は各自で判断してください)の計三役を担当しており、こうしたところはそういうものだと納得して見ていただくしかない。

 が、コントの集積のようでありながらも救世主扱いされてしまったブライアンの人生はさらなるうねりを持ってどんどん悪化、いくつかの救われそうな要素も片っ端から横槍が入って潰されまくり、やがてとんでもなく絶望的な状況へと陥ってしまう。そんな中で登場人物たちが合唱するのが、数あるモンティ・パイソン関連楽曲の中でも最も有名な「Always Look on the Bright Side of Life」(人生の明るい面を見よう)、有名アーティストが多数出演したロンドン五輪の閉会式でも特に会場が一体となって歌われていた一曲だ。

 まったくもって絶望的な状況でこんな題名の歌というのはいかにもモンティ・パイソン的な皮肉なギャグではあるのだが、絶望に対して僅かでも前向きにポジティブに対峙しようとする場面でもあり、場合によってはちょっと感動すらしてしまう。

 ということで本作は正月からのあれこれになんらかのショックを受けている方々に、もしかしたらそれなりの良い効果があるかもしれない映画として取り上げたわけだが、最初の方に書いた通り、今を乗り切るための適切な方法には個人差があり、とりあえず本記事を読んだ上で見るかどうか各自ご判断いただければ、と思う。だいたいこの映画、キリスト教圏、特にカトリック団体から猛抗議を受け、地域によっては上映禁止にまでなったほどの問題作でもあるわけで、いわば劇薬である。だが、効く人には効くだろう。良い意味でも悪い意味でも。

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田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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