もやもやレビュー

闇市の裏で鳴り響く銃声の正体『ほかげ』

『ほかげ』 11月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

今回紹介するのは塚本晋也監督の作品。
監督のこれまでの作品......戦場の極限状況で変貌する人間を描いた『野火』(14)、太平の世が揺らぎ始めた幕末を舞台に生と暴力の本質に迫った『斬、』(18)などの流れを汲み、戦争を⺠衆の目線で描き、戦争に近づく現代の世相に問う作品となっている。

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舞台は『野火』の直後、終戦後の闇市。空襲で家族を亡くし食べ物を盗んで暮らす子供と、売春斡旋された女、戦地から生き延び帰還した男たちの目を通して、戦争で奪われたものと、絶望と闇を抱えたまま混沌の中で生きる人々を、したたかに描き出す。

戦争を描いた映画は数えきれないほどみてきた。だけど、その時に残された人の姿にクローズアップした作品は多くない。

よく見られているところでいうと『ほたるの墓』などが思いつく。残された人々の姿を見てもやっぱり戦争が人を変えてしまった。そう思う出来事が多すぎた。

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戦地に出て心に深い傷を負った人々の姿も痛々しく辛い。だけど戦地に行かず残された女、子どものリアルを今回はみることになる。生きることにただただ必死で善悪の区別もつかない子供が大人に利用される姿に胸がしめつけられた。子供が1人で生きていくにはやはり誰か大人の力が必要だと強く感じた。

愛のない世界、愛し、愛されることを知らない人々。
闇市は静かながら、風の音が心をザワザワとざわつかせ、その中で鳴り響く銃声の正体を知る人々の、なんともいえない一瞬の沈黙。
だけどすぐにまた街のざわつきが取り戻される。あぁ、生きている人の声がしている。
深い悲しみと絶望の中、人間が生きている。
昨今の戦争のニュースの多さから、このような思いをしている人が、今この世界にもたくさんいることを改めて考えた。

(文/杉本結)

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『ほかげ』
11月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

監督:塚本晋也
出演:趣里、森山未來、塚尾桜雅、河野宏紀
配給:新日本映画社

2023/日本映画/95分
公式サイト:https://hokage-movie.com/
予告編:https://youtu.be/MFG4AHYuPig?si=5-fa17tOeW95fpEo
©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

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