もやもやレビュー

次世代に届けたい『ぼくは君たちを憎まないことにした』

『ぼくは君たちを憎まないことにした』 11月10日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開

今回紹介するのはパリ同時多発テロを題材とした映画。2015年11月13日に起こったテロ事件で死者130人負傷者300人以上という大きなテロ事件だった。

愛する妻がパリ同時多発テロの犠牲者となってしまった夫のアントワーヌは、Facebookに妻の命を奪ったテロリストに対しての手紙を書いた。
それは残された息子と共に「今まで通りの生活を続けていく」という決意表明と共に、亡き妻への誓いのメッセージでもあった。

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この手紙は一晩で20万人以上にシェアされ、新聞の一面を飾ったアントワーヌの「憎しみを贈らない」詩的な宣言は、動揺するパリの人々をクールダウンさせ、テロに屈しない団結力を芽生えさせていく。

冒頭で登場する被害にあってしまう奥さんがとてもユーモアがあり、家族の幸せを第一に行動している姿が愛くるしく好感が持てた。それでも冒頭からどこか危ない空気が漂っている。開け放たれたベランダから子どもは転落しないかとか、なんとなくこれから起こることへのもやもや感が所々で表現されていて、言葉では表現できない不穏な空気を映像を通してすごく伝わってきた。

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妻がいなくなって気がおかしくなりそうなはずなのに、子どもとの生活は休むことは出来ない。
いつも通りと思ってもママがいない。それは息子にとっては辛すぎる真実。だけど、向き合うしかない。朝ごはんを作ってくれたり、着替えさせてくれたり、絵本を読んで、一緒に寝てくれたママ。そんなママがいない。全てパパがすることになってしまう。
そんな中書いた手紙。

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憎しみの連鎖を起こさないためにも息子に対してテロリストに対しての憎しみを伝えたくないと語るシーンはとても心に響いた。
そうやってメディアに取り上げられて、周囲からの優しさに溢れた手助けも素直には受け取れなかったり様々な葛藤が起こる。

綺麗事だけじゃすまされない心の内や現実とそれでも次世代への負の連鎖が起きないことを祈る姿、どちらも本心だと思った。
本作から本当に辛いことがあったとき、人を恨まないことで救われるという学びになった。

(文/杉本結)

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『ぼくは君たちを憎まないことにした』
11月10日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開

監督・脚本:キリアン・リートホーフ
出演:ピエール・ドゥラドンシャン、カメリア・ジョルダナ
配給:アルバトロス・フィルム

原題:Vous n'aurez pas ma haine/英題:YOU WILL NOT HAVE MY HATE
2022/ドイツ・フランス・ベルギー/102分
公式サイト:https://nikumanai.com/
予告編:https://youtu.be/MSBVIWPRyUs
©2022 Komplizen Film Haut et Court Frakas Productions TOBIS / Erfttal Film und Fernsehproduktion

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