もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2023年11月号

映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』(11/17公開)より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』二十七回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
11月公開の映画からは、この四作品を選びました。

『パトリシア・ハイスミスに恋して』(11月03日公開)
公式サイト:https://mimosafilms.com/highsmith/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=5TUex4O8F1k

メイン(c)CourtesyFamilyArchives.jpg 欧米ではアガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇る作家の謎に包まれた人生と素顔に迫るドキュメンタリー映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』。
「すべての娘たちはパトリシアに夢中だった。彼女は思う存分楽しんだはずよ」「偽名で出した小説「キャロル」で彼女は崇められていた。彼女は同性愛者だから、ゲイ小説を本名で書く作家はいなかった」という元恋人だった女性たちの発言があるように、パトリシアは同性愛者でした。レズビアンについて書いた自伝的な小説『キャロル』は偽名で発表され、当時大ヒットとなっており、近年では映画化されています。
 ここからは妄想です。と言いたいところですが、予告編で「私が小説を書くのは生きられない人生の代わり、許されない人生の代わり」とパトリシアが書いた日記の言葉が使われています。彼女は母親の「女は女らしく」という呪縛や時代と戦う方法として小説を書き続けるということを選択したように感じられます。
 パトリシア・ハイスミスが一人の小説家である前に、一人の女性、いや人間としてどう生きようとしたのか、予告編を見ていると興味が湧いてきます。生誕100周年を経て発表された秘密の日記やノートによって、彼女の小説はより輝きを増すのではないでしょうか。僕は『アメリカの友人』を読んでみようと思います。

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『パトリシア・ハイスミスに恋して』
11月3日(金・祝)より新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:ミモザフィルムズ
© 2022 Ensemble Film / Lichtblick Film

『正欲』(11月10日公開)
公式サイト:https://bitters.co.jp/seiyoku/#
予告編:https://youtu.be/qEPtPDCFcJs?si=66uCJwJxbxR_MG_x

main_1.jpg 朝井リョウのベストセラー小説を映画化した『性欲』。検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)と向き合って話をしている桐生夏月(新垣結衣)。夏月と佐々木佳道(磯村勇斗)がびしょ濡れになっているシーンがありますが、彼らが学生時代にも同じような場面があったのではないかと思わせるシーンもあります。
 また、ダンサーの諸橋大也(佐藤寛太)と神戸八重子(東野絢香)という若い二人の交流らしきシーンもあります。彼ら五人の人生が交差していく物語のようです。
 ここからは妄想です。「性欲」ではなく、タイトルが「正欲」となっていることから、欲望を抱えること自体は肯定していくのではないでしょうか? しかし、たとえば誰かを殺したいとか傷つけたいというダークな欲望も人は抱えています。
「この世界で生きていくために手を組みませんか?」と佳道が夏月に話しているシーンもあり、二人でなんらかの復讐をして捕まって、検事の寺井と向き合っているという可能性も高そうです。二人の罪をどう思うかという問いを投げかけるオープンエンドなラストシーンかもしれません。

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『正欲』
11月10日(金)より全国公開
配給:ビターズ・エンド
©2021 朝井リョウ/新潮社  ©2023「正欲」製作委員会

『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』(11月17日公開)
公式サイト:https://www.monalisa-movie.jp/
予告編:https://youtu.be/KZt9yQ-azlE?si=dm_yFcQlxLDrGy5j

★メイン.jpg「次世代タランティーノ」と注目されているアナ・リリ・アミリプール監督作『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』。精神病棟から脱走した少女のモナ・リザ・リーは赤い月の夜に突然"覚醒"します。警官が「発見しても彼女の目は絶対見るな!」と言っているように、モナ・リザと目が合うと相手は彼女の意のままに操られてしまうようです。
 モナ・リザと幼い少年が歩いているシーン、「自由になるんだ。力を抜いてー」という幼い子供の声も予告編にあります。少年は彼女の弟の可能性もあり、モナ・リザは弟を探しに脱走した可能性もありえそうです。
 ここからは妄想です。映像と音楽はサイケデリックさがあり、モナ・リザと一緒に行動している年長の女性など、モナ・リザはニューオリンズで様々な人と出会っていくようです。ストリップバーでたくさんのお札が舞っていたり、レジから金を持って行こうとするシーンもあるので、モナ・リザはそういう犯罪的なものに関わっていってしまいそうです。
 モナ・リザが突如"覚醒"した理由が最後には明かされるとは思うのですが、『かぐや姫』のように月からやってきた宇宙人というオチもありえるかもしれません。最後は打ち上げ花火が上がっている中、やってきた宇宙船で月へ帰っていくというSF的なラストもありえそうです。

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『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』
11月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて公開
配給:キノフィルムズ
© Institution of Production, LLC

『ほかげ』(11月25日公開)
公式サイト:https://hokage-movie.com/
予告編:https://youtu.be/MFG4AHYuPig

hokage_main1.jpg 鬼才・塚本晋也監督最新作『ほかげ』。「焼け野原をふらふらしてたら、優しそうなおっさんがここにくれば優しくしてくれる人がいるって」という青年に汁飯を出す半焼けの居酒屋で暮らしている女(趣里)。そこに空襲で家族をなくした少年が現れ、次第に女が少年のことを愛しく思うようになっていく姿も予告編で見ることができます。また、少年は片腕が不自由な男(森山未來)とも交流をしていくようです。
「変なの来てないよね。大丈夫そうな奴しか声かけてないけど。ほら、わかんないから」と女に話しかけているのが、青年に声をけたおっさんなのでしょう。女はここで体を売っているようですが、おっさんは子供を売るためなのか、声をかけて集めているようにも思えてきます。
 ここからは妄想です。「戦争が、終わったんだ」というテロップが出てきますが、戦争が終わってもすぐに秩序のある平和な日常はすぐには戻ってはきません。非条理で混沌とした時間が続き、この映画はそれを描いているようです。
 戦争というのはただ「狂っている」非日常です。現在でもイスラエルとパレスチナの間ではエルサレムにおける緊張が高まっています。私たちがこれ以上、戦争を望まないためにも、戦争によって引き起こされる混沌や悲惨さをしっかり知る、考える必要があるのではないでしょうか?

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『ほかげ』
11月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
配給:新日本映画社
©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。

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