映画『ユースフル・ゴースト』:掃除機になった妻と、現代の歪みを照らす異色のタイ怪談
7月10日(金)公開
今回ご紹介する『ユースフル・ゴースト』は、タイ映画として初めてカンヌ国際映画祭〈批評家週間〉に選出され、見事グランプリを獲得した大注目作です。新鋭ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督の長編デビュー作でありながら、米アカデミー賞国際長編映画賞のタイ代表にも選出。タイ映画の世界的評価をさらなる高みに押し上げた傑作が、ついに日本公開を迎えます。
物語の舞台は、粉じん公害が深刻化するタイ・バンコク。最愛の妻・ナットを呼吸器疾患で亡くし、悲嘆に暮れる日々を送っていた夫のマーチ。そんなある日、なんとナットの魂が「掃除機」に宿る形で舞い戻り、二人は奇妙な再会を果たして愛を確かめ合います。 しかし一方で、マーチの家族が経営する工場では、死亡した従業員の霊が機械に取り憑き、操業停止の危機に追い込まれていました。霊を忌み嫌う家族から拒絶されてしまうナット。彼女は工場の除霊に協力することで、夫への真実の愛、そして自らの存在が文字通り"役に立つ幽霊(ユースフル・ゴースト)"であることを証明しようとしますが......。
正直なところ、鑑賞前にこのあらすじを読んだ段階では、「なんだかおかしな話になりそうだ」という予感しかありませんでした。いわゆる『世にも奇妙な物語』のような不条理コメディか、あるいはオカルトホラーのどちらかに振れた作品だろうと予想していたのです。
本作は、タイでは誰もが知る怪談『メー・ナーク・プラカノーン』(死後も現世にとどまり、夫と愛を深め続けた女性の物語)に着想を得ているとのこと。日本では馴染みの薄い怪談だからこそ、先々の展開が予測できず、常に新鮮な気持ちで鑑賞できるのが大きな魅力となっています。
それにしても、妻が「掃除機の幽霊」になるという設定は本当にシュールです。見慣れるまでは、掃除機が1台で勝手に動き回ったり、椅子に腰掛けたり、時には夫にご飯を食べさせようとしたりする姿に、劇場でも思わず笑いが起きることでしょう。
しかし、本作は決して「掃除機が楽しく動き回るだけ」の映画ではありません。それはあくまで前半の一側面に過ぎず、この物語の"本番"は後半からだと言っても過言ではないのです。劇中に登場する幽霊は、この掃除機だけにとどまりません。彼らが一体どんな姿で現れるのかは、ぜひ劇場のスクリーンで確かめてみてください。
物語が進むにつれて、映画は環境問題や労働問題、さらには政治的抑圧といった「現代社会の歪み」へと鋭く切り込んでいきます。予想を次々と裏切る怒涛の展開に引き込まれ、後半はあっという間に駆け抜けていきました。
掃除機になった妻が放つ、「ただの掃除機ではない。私は電力ではなく、愛の力で動いている」というセリフが非常に印象深く、胸に残ります。
夏の始まりに、少し風変わりで、それでいて深い余韻を残す異国の怪談話に浸ってみるのはいかがでしょうか。
(文/杉本結)
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『ユースフル・ゴースト』
7月10日(金)公開
監督・脚本:ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク
出演:ダビカ・ホーン、ウィットサルート・ヒンマラート、アパシリ・ニティポン、ワンロップ・ルンカムチャット、ウィサルット・ホームフアン ほか
配給:SUNDAE(Powered by Filmarks)
2025/タイ、フランス、シンガポール、ドイツ/130分
公式サイト:https://sundae-films.com/useful-ghost/
予告編:https://youtu.be/TZRiQWH_CBk
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