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その手足は、本当にあなたのものか?禁断の医療ミステリー――映画『廃用身』

『廃用身』 5月15日(金)公開

正直に告白すれば、「言葉を失う」という表現は、まさにこのような映画に出会ったときに使うのだと思う。医療界のタブーに深く切り込み、発表当時から大きな論争を巻き起こした衝撃作がついにスクリーンへ放たれる。現役医師であり、作家としても活躍する久坂部羊のセンセーショナルなデビュー作を映画化した『廃用身』だ。

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原作に議論があったことは知っていたが、あえて予備知識を入れず、未読の状態で鑑賞した私は、上映後しばらく放心状態で立ち尽くすしかなかった。脳卒中などで麻痺し、二度と動かなくなった手足――「廃用身(はいようしん)」を、介護負担の軽減と生活の質の向上のためにあえて切断する。この「エイジレス・プログラム」という驚愕の処置を前に、自分は当事者ではないから理解が追いつかないのか、それともこれは現実になり得る蛮行なのか。鑑賞中も、そして今も、胸の奥のモヤモヤが止まらない。

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本作の凄みは、単なるスリラーに留まらない点にある。現役医師である原作者ならではの冷徹なリアリズムが、日本の介護現場の限界や家族の疲弊、そして「老い」への根源的な恐怖を暴き出していく。清潔で無機質な病院の空気感と、そこに渦巻く人間たちのどろりとした感情の対比は、息を呑むような緊張感を持続させている。

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特筆すべきは、演出による「身体的な違和感」だ。劇中ではスローズームが多用され、観客はその揺らぎに酔うような、あるいは意図的に頭を混乱させられるようなストレスを強いられる。この映像表現こそが、物語の倫理的な危うさと呼応し、観る者の理性をじわじわと削っていく。

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5月、芽吹きの季節にあえて突きつけられる、残酷なまでに真実味を帯びた「再生」の物語。ラストに待ち受けるのは、救いか、それとも破滅か。私たちはこの問いに、どう答えを出すべきか。ぜひ劇場で、その衝撃の目撃者となってほしい。

(文/杉本結)

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『廃用身』
5月15日(金)公開

監督・脚本:𠮷田光希
原作:久坂部羊『廃用身』(幻冬舎文庫)
出演:染谷将太、北村有起哉、六平直政、瀧内公美
配給:アークエンタテインメント

2026/日本映画/125分
公式サイト:https://haiyoshin.com
予告編:https://youtu.be/bE8uH2aRQ9M
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