名匠の遺志を継ぎ、緒方明監督と豪華キャストが結実させた――『幕末ヒポクラテスたち』
『幕末ヒポクラテスたち』 5月8日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー
幕末という激動の時代。誰もが刀を手に国を論じていたその陰で、ただひたすらに「命」を救うために蘭書に没頭した若き医師たちがいた。
本作『幕末ヒポクラテスたち』は、医師免許を持つ映画監督・大森一樹が、自身の代表作『ヒポクラテスたち』(80)の"元祖"を描こうと遺した生前最後の企画である。2022年に急逝した大森監督のバトンを受け継いだのは、かつて彼の助監督を務めた緒方明監督。師の遺志に応えるべく、佐々木蔵之介、内藤剛志、柄本明ら、監督ゆかりの豪華キャストが集結し、スクリーンに新たな命を吹き込んだ。
物語の舞台は、創立150周年を迎える京都府立医科大学の源流ともいえる時代。稲垣浩監督の『ふんどし医者』(60)を原案に、知の最前線である「適塾」などで学び、未知の疫病「コロリ(コレラ)」に立ち向かった若き蘭方医たちの情熱と葛藤を鮮烈に描き出している。タイトルの「たち」という言葉が示す通り、本作の主役は一人の英雄ではない。未来の日本を夢見て、私利私欲を捨てて患者に寄り添った若き医師候補生たちの群像劇だ。
当時、手術の仕方を教えてくれる人もいない時代に、彼らはどのように解剖を学び、実践していったのか。その過程が目を覆いたくなるほどリアルに表現されており、観る者を圧倒する。緒方監督の演出は、当時の医療現場の過酷さを浮き彫りにする一方で、大森監督がかつて描いた医大生たちの瑞々しい青春像を、幕末という鏡の中に鮮やかに反転させてみせる。時代劇としての重厚さと、理想に燃える瞳を丁寧に切り取った青春映画としての爽やかさが、絶妙なバランスで共存しているのが本作の真骨頂だ。
劇中、彼らが繋ごうとした命の先には、私たちが今当たり前のように享受している現代の医療がある。大森一樹という稀代の映画人が最後に見たかった景色。それは、時代を超えて「救う」ことに殉じた名もなき者たちへの、愛に溢れた賛辞であったに違いない。その魂の鼓動を、ぜひ劇場で体感してほしい。
(文/杉本結)
『幕末ヒポクラテスたち』
5月8日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー
監督:緒方明
出演:佐々木蔵之介、藤原季節、藤野涼子、室井滋(ナレーション)、真木よう子、柄本明/内藤剛志
配給:ギャガ
2025/日本映画/103分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/bakuhippo_movie/
予告編:https://youtu.be/_mDbxg0HyGI
©「幕末ヒポクラテスたち」製作委員会

