【無観客! 誰も観ない映画祭 第55回】『女地獄 森は濡れた』

- 『女地獄 森は濡れた』
- 神代辰巳,神代辰巳,伊佐山ひろ子,中川梨絵,山科ゆり,絵沢萠子,叶今日子,高橋明,堀弘一,山谷初男

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『女地獄 森は濡れた』
1973年 日活 65分
監督・脚本/神代辰巳
出演/伊佐山ひろ子、中川梨絵、山谷初男、山科ゆり、堀宏一、高橋明、絵沢萌子ほか
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1971年にスタートした日活ロマンポルノですが、劇場に足を運ばなくても自室で手軽に楽しめるAV(アダルトビデオ)の台頭により衰退、1988年に終焉を迎えました。しかし日活ロマンポルノ作品が単なる使用目的(笑)のAVと異なるのは、芹明香・東てる美・美保純などの個性的な女優陣による一般映画と変わらないストーリー性が存在する事です。そして時おり後々カルト化する作品も生まれ、今回紹介する『女地獄 森は濡れた』もそんな名作なのでした。
サディズムの語源となったSM小説の始祖マルキ・ド・サド原作の『ジュスティーヌ』シリーズを、日本の大正時代に置き換えた意欲作で、脚本・監督は鬼才・神代辰巳(くましろたつみ)。『一条さゆり 濡れた欲情』(72年)と『四畳半襖の裏張り』(73年)でブレイクし、ポルノ作品のみならず1974年には東宝からのオファーで萩原健一主演『青春の蹉跌』を監督、キネマ旬報ベストテン4位という高評価を得た巨匠です。
ところが『女地獄』が封切りから4日ほど経った頃、日活は警視庁からの警告を受け上映打ち切りを決定したのです。実は前年に日活ロマンポルノ4作品が警視庁保安一課によりワイセツ映画として摘発され、日活の関係者だけでなく上映を認めた映倫の審査員まで幇助罪で逮捕される事態になりました。「芸術かワイセツか」が問われる刑事訴訟、俗に言う「日活ロマンポルノ裁判」に発展していたのです(80年無罪判決)。言わば『女地獄』は、監視の目を緩めない警察に対して「やれるもんならやってみろ!」と開き直った神代監督による挑発だったのです。かねがねサドを映像化してみたかった神代監督は、『一条さゆり 濡れた欲情』で第46回キネマ旬報日本映画主演女優賞を受賞した伊佐山ひろ子の「マゾの方をやりたい」という希望を取り入れ、サドの代表作の中から選んだのが『ジュスティーヌ』だったのです。
10歳で両親と死別してから不幸な人生を歩んできた幸子(伊佐山ひろ子)。奉公先で女主人殺害の濡れ衣を着せられ指名手配犯となり、海沿いの土地に逃亡してきました。『DESIRE』を歌っている頃の中森明菜風ボブの髪型をした幸子役の伊佐山は、刑事ドラマや時代劇などでヤサグレ女やヤクザの情婦などを圧倒的な存在感で演じていた名バイプレイヤーです。
さて、そんな幸子を運転手付きの車の中から一目見てワケアリと感じた洋装の貴婦人(中川梨絵)。幸子を呼び止めて、主人が経営するホテルに無償で泊まらせます。ちなみに貴婦人が乗るクラシックカーはマニアさんからお借りした本物で、持ち主が「私以外に運転させられない」と自らハンドルを握りお抱え運転手に扮しています。三十路の貴婦人・洋子を24歳で演じた中川梨絵はとにかく色っぽく、お召し物は名監督・山本薩夫の日活映画『戦争と人間』三部作(70〜73年)でヒロインの浅丘ルリ子が着ていた物だそうです。
さて、滅多に客が来ない山腹にあるホテルに到着すると、幸子を2人の女中が出迎えます。ロウソクによる照明が、ゴシックホラーの様に怪しげな雰囲気を効果的に出しています。そう、実はこの作品はポルノというよりは、完全なるスラッシャー(殺人鬼)ホラー映画なのでした。応接間に現れた坊主頭の主人・竜之介(山谷初男)が、幸子を見てニヤリとします。すでに警察の指名手配写真がホテルに届いていたのです。それを知らされた夫人は急に態度を変え、幸子を「オマエ」呼ばわりして高飛車になり「警察に突き出さない代わりに、やってもらいたい事がある」。これに幸子は断れる雰囲気ではないと感じ、従うしかありませんでした。秋田弁を使う主人に扮した山谷初男は刑事ドラマや時代劇の悪役が多く、実際に秋田県出身なので秋田訛りの地方出身者やホームレスなどが印象に残ります。
さて、主人に財産は腐るほどあるのですが、来客から金を奪って殺す事を夫婦の道楽にしていたのです。主人は自分達の正体を幸子に説明しながら、女中(山科ゆり)の着物を頭の上までまくり上げ(昔スカートでやっていたイジメ「茶巾絞り」)、丸出しにした尻をフォークで傷つけて流血させます。その後も女中達に突然、こういった加虐行為をするのですが、つまり主人はサディストだったのです。その女中が、当作品のロマンポルノ女優3人目のスター山科ゆり。山科も伊佐山と中川同様に一般ドラマでよく見ましたが、『電撃!!ストラダ5(ファイブ)』(74年)のヒロイン・アンドロメダ、『イナズマンF(フラッシュ)』(74年)のインターポール捜査官は、現役ポルノ女優が児童番組に出演するという点で、現在では考えられない配役でした。
そこへ偶然、不幸な鳥撃ちハンター二名が来客としてやって来ます。主人は下着姿にした幸子を客室に放り込み二人を油断させて監禁、ピストルを突きつけ「命が惜しければ、妻とこの娘を犯せ」。客達は「え、いいの?」って感じで、恐る恐る各々が性行為を始めます。すると主人は年長らしきヒゲ男の尻を鞭でペシペシ叩き始め、いつの間にか全裸になっている女中が主人のモノを口にするわ背中を鞭で叩くわと、男女入り乱れてのSM乱交プレイの開始です。やがて興に乗った主人が、幸子を後ろから犯している若造の方の尻を撫で回し始めたと思いきや(嫌な予感)、そこへズン! 「ええ?」と背後を見て驚愕する若造の肛門からスポッとモノを抜いた主人は、妻を犯しているヒゲの尻にもズン! そして幸子が昇天した直後、主人は若造をピストルで撃ち殺し、血飛沫を顔に浴びながら「この崇高な快楽⋯⋯うっ」と果てます。警察が問題視した箇所がここでした。さらに夫人も犯されながらヒゲを銃殺し、絶頂に達します。すると主人は、幸子も夫人も女中も全員犯していきます......って、どんだけ絶倫なのでしょうか!
夫婦の狂った道楽が終わると、全員が庭に出て、客の死体を乗せたテーブルの上で宴を始めます。死体は女中達が穴を掘って埋めますが、彼女らは子供の頃から何の疑問も持たず夫妻に仕えているそうです。人身売買で連れて来られたのでしょうか、謎が残ります。ゲッソリして「こんな事は許されません」と何も食べない幸子に、主人は「お前さんの言う道徳ってヤツは、実は権力者の都合によってしか作られていないんだよ」。神代監督は国家権力(警察)に対する批判を「いつの世に、他人を犠牲にしない権力が存在したか⁉」と主人をアジテーターに見立てて言わせたのです。そんな幸子をテーブルに伏せさせ、飽きもせず後ろから犯す絶倫オヤジですが、この伊佐山と山谷は当時付き合っていたそうです。
翌朝、柔らかな朝日の陽光を浴びながら、幸子は夫婦と庭で朝食。幸子は諦念して、ここでMとして暮らす覚悟を決めたようです。そこへ娘を連れた中年夫婦の親子三人がホテルに泊まりに来ます。また新たな犠牲者が⋯⋯というところで完。
このラストシーンにはラジオ体操の歌が流れますが(実際には大正時代には存在せず昭和六年から)、この締めの音楽は中川梨絵のアイデアでした。実は自己主張の激しい演技を勝手にかます中川は、神代監督とはよく衝突し「何するか、チンピラ女優」、「何よ、チンピラ監督」と口論も絶えなかったようです(汗)。十代でサドの『悪徳の栄え』を読むような文学少女だった中川は、カトリーヌ・ドヌーヴ演じるジェスティーヌ映画も観ていたというのですから一家言あったのでしょう。そんな関係にあっても、神代監督は中川のアイデアを「歪みが見える」と採用し、「監督には嫌われていた」と述懐する中川も「サドも神代監督の作品を観たら世界観を再現してくれたと喜ぶと思う」と、良い所を互いに認め合うところはプロとしてカッコイイですね。晩年の神代監督は「もう一度見たい自作」と訊かれると、真っ先に本作を挙げていたといいます。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

