不可能な仕事を任された男――『長安のライチ』
『長安のライチ』 1月16日(金)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン 池袋、Strangerほか全国順次公開
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』『鯨が消えた入り江』への出演で注目を集める俳優、テレンス・ラウが出演する『長安のライチ』。歴史劇でありながら、堅苦しさよりも軽やかな語り口が印象的な一本だ。
本作で監督・主演を務めるのはダーポン。ワン・イーボー主演の『熱烈』で監督を務め、『無名』では俳優としても存在感を示した人物である。演じ手と作り手の両方の感覚を持つダーポンならではの視点が、本作のユーモアと人間味を支えている。
原作は、人気作家マー・ボーヨンによる同名小説。史実や伝説の"隙間"に物語を立ち上げる作風で知られる作家だが、本作でも唐代・天宝年間に実在したとされる「ライチ使」の逸話をもとに、壮大でありながらどこか可笑しみのある物語が紡がれる。
舞台は唐の天宝年間。
楊貴妃の誕生日に合わせ、南方・嶺南から都・長安まで、新鮮なライチを届けよ――。それは、数千キロという距離と、すぐに傷んでしまう果物という条件を考えれば、ほとんど不可能に近い任務だった。
その無謀な使命を託されたのは、名もなき下級官吏。権力も財力も持たない彼は、知恵と機転、そして運にすがりながら、前代未聞の"ライチ輸送"に挑むことになる。一粒の果実を守るために動き出す人々、道中で立ちはだかる困難、そして次々と露わになる官僚社会の理不尽さ。
物語は、歴史スペクタクルの装いをまといながらも、その中心にあるのは極めて人間的な「仕事」の話だ。無理難題を押し付けられ、それでもなんとかやり遂げようとする一人の男の奮闘が、軽快なテンポで描かれていく。
『長安のライチ』が面白いのは、そのスケールの大きさと同時に、語られているテーマが驚くほど身近である点だ。皇帝や楊貴妃といった歴史上の人物が背景にいながら、物語の視点は常に「下から」描かれる。理不尽な命令、無茶な納期、失敗すれば責任だけを押し付けられる構造は、現代の日本における労働環境とも重なって見える。
だからみていて刺さるし、共感できる部分がうまれ親近感がわいてくる。
困難な任務のなかで生まれる人との縁や、思いがけない助け、そして「どうにかするしかない」という前向きさが、物語に軽やかな推進力を与えている。ユーモアが随所に散りばめられているのも、観客を疲れさせない理由だろう。
一粒のライチを運ぶという、ばかばかしいほど壮大なミッション。その過程で浮かび上がるのは、権力に振り回されながらも、今日を生き抜こうとする名もなき人々の姿だ。歴史劇でありながら、どこか現代劇のような共感を呼ぶのは、その視点の誠実さにある。
重厚な歴史映画が苦手な人ほど、意外なほど楽しめる一本かもしれない。
壮大で、可笑しく、そして少し切実。
『長安のライチ』は、過去の物語を借りて、今を生きる私たちの姿を映し出す映画だった。
(文/杉本結)
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『長安のライチ』
1月16日(金)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン 池袋、Strangerほか全国順次公開
監督:ダーポン(大鵬)
出演:ダーポン(大鵬)、バイクー(白客)、ジュアン・ダーフェイ(庄達菲)、テレンス・ラウ(劉俊謙)、アンディ・ラウ(劉徳華)、ヤン・ミー(楊幂)、チャン・ユエン(常遠)
配給:Stranger、面白映画
2025/中国/122分
公式サイト:https://www.chuka-eiga.com/raichi
予告編:https://youtu.be/yWc8LDGkC1o
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