余白を歩く映画。『旅と日々』
『旅と日々』 11月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー
『ケイコ 目を澄ませて』(22)、『夜明けのすべて』(24)などで映画賞を席巻し、現代日本映画界を牽引する三宅唱監督の最新作。
原作はつげ義春の「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」。2020年、フランスのアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞に輝いた稀代の漫画家による2つの作品を、三宅監督が50年以上の時を経て現代的にアップデートした。
本作は、世界でもっとも歴史ある映画祭のひとつであるロカルノ国際映画祭にて、日本映画としては18年ぶりとなる金豹賞《グランプリ》を受賞。さらにヤング審査員特別賞と併せてW受賞を果たした。すでにアメリカ、フランス、韓国、中国、台湾、香港、インドネシア、ポルトガル、ギリシャでの配給も決定しており、世界が注目する日本映画といえる。
物語は、夏と冬----2つの季節における2つの「旅」から構成されている。
「旅をするのは、日常から逃げたいから。」
劇中で交わされる何気ない会話が、このひとことに深みと説得力を与えている。言葉と言葉の間にある"間"が心地よく、背景に流れる波の音がBGMのように作用する。
夏には陰が漂い、冬には光が差す。
イメージの反転ともいえるその感覚は、ありそうでなかった絶妙なバランスで作品に落とし込まれている。
夏の湿った空気のなか、誰かと他愛ない会話を交わした経験は、多くの人が持っているはずだ。それが疲れた心を癒す旅先なら、なおのこと記憶に残る。
冬の寒い日、囲炉裏を囲む経験はないが、こたつを囲むような安心感。会話がなくても居心地が悪くならない「ただそこにいていい時間」が、観客にも伝わってくる。
大きな事件が起こる作品ではない。
しかしこの映画は、「旅をする意味」を静かに問いかけてくる。
観光地を巡ることだけが旅ではない。何もしない時間をその土地で過ごすことこそ、最大の贅沢かもしれない。
作中に電子機器はほとんど登場せず、デジタルデトックスの旅を連想させる。
静けさの中、自分と向き合い、日々の雑音を忘れる時間。それこそが、明日を生きるために必要な"休息"なのだと思った。
(文/杉本結)
『旅と日々』
11月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:三宅唱
原作:つげ義春「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」
出演:シム・ウンギョン、堤真一、河合優実、髙田万作、佐野史郎
配給:ビターズ・エンド
2025/日本映画/89分
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/tabitohibi/
予告編:https://youtu.be/KKuPwlkFEFY
© 2025『旅と日々』製作委員会

