その健康情報、本当に正しい? ハーバード大学医学部講師が示す「食習慣改善」の考え方

- 『予防医療の医師が教える 最小の努力で最大の効果を得る食事学』
- 濱谷 陸太
- 東洋経済新報社
- 1,650円(税込)

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病気を予防するために大切なのが、健康的な食事です。けれど、「情報が多すぎて何を信じればいいのかわからない」と思っている人は多いのではないでしょうか。そんな中でも、目を引く情報に惑わされないしっかりとした「軸」を持ち、正しい手順で食習慣改善をおこなえば、お金や時間をかけずとも食事から最大限のメリットを得ることができると、ハーバード大学医学部講師の濱谷陸太氏は言います。「正しい知識と仕組み化が9割」だという戦略的食べ方の科学について教えてくれるのが、濱谷氏の著した『予防医療の医師が教える 最小の努力で最大の効果を得る食事学』です。
本書には、さまざまな「食にまつわる正しい情報(≒科学的な情報)」を見極めるための考え方が紹介されます。たとえば、よくある議論に「トランス脂肪酸を含むマーガリンは危険かどうか」というものがあります。健康に悪いことからアメリカでは使用を厳しく制限されていると聞くと心配にもなりますが、日本の食品でのトランス脂肪酸は今や非常に低いそうです。
「日本でもパンやフライドポテトを食べる人は多いですが、食文化が全く異なるので、その摂取量は比になりません。この大きな食文化の違いを無視して、トランス脂肪酸の摂取量『制限』というところだけ切り取っても、ピントがずれてしまっています」(本書より)
マーガリンが大好物で毎日大量に食べていたら心筋梗塞になった、というような例外的な人はいるかもしれませんが、「少しでもトランス脂肪酸を摂ると健康に悪影響を及ぼす」というのは科学的ではないというわけです。
ほかにも、コーヒーやナッツ、赤肉(牛肉、豚肉など)、卵などを取り上げ、科学的根拠とともにその解釈の仕方について解説。食事の健康への影響というものは複雑すぎて、はっきりとした因果関係を証明するのはとても難しいことだとし、「『○○が健康に良い/悪い』という考え方を捨てる」べきだと記します。それよりも、健康を考えるうえでより重要となるのは「食習慣」。自分の平均的な食事の構成で「どのくらいの割合でどの食材を摂取しているか」(本書より)を把握し、食習慣の改善を第一目標にするのがよいそうです。
本書の後半では、自分の目標とする食習慣の定め方について紹介しています。食事改善というと数日、数週間という短期的な目線になりがちですが、考えるスパンは数年や数十年といった長期的なもの。自分がふだん何気なく摂っている食事は、幼少期の食習慣、食材や食品の値段、ストレス、忙しさなど、とても複雑な要素で決まっています。濱谷氏によると、「どの環境を『変えることができるか』明確にすることが、食習慣改善を仕組み化するために必要」(本書より)とのこと。外食が多くても、冷凍食品やコンビニを利用しながらでも、無理なく環境を改善していける仕組みづくりを本書で学ぶことができます。
私たちはついつい、人目を引く健康情報や食事法に飛びついてしまいがちですが、極端な思考に陥らず、長期的な目線で食習慣を改善していくことこそが、健康へのいちばんの近道だということが本書を読むとわかります。がんや糖尿病、心血管病、高血圧といった病気を未然に防ぐために、自分がどのような食習慣を続けるべきか、皆さんもいま一度考えてみてはいかがでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]
