【無観客! 誰も観ない映画祭 第49回】『ともだち』

- 『松田優作DVDマガジン(39) 2016年 11/22 号』
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『ともだち』
1974年 日活児童映画室 86分
監督/澤田幸弘
脚本/勝目貴久
出演/阿部仁志、鈴木典子、地井武男、松田優作、原田美枝子、下川辰平、牟田悌三ほか
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癌と闘いながら鬼気迫る演技を見せた『ブラック・レイン』(89年)が、40歳の若さで遺作となった松田優作。小学校の体育館や地域の文化ホールなどで親子向けに上映する日活児童映画室の劇場未公開映画に、ちょうど『太陽にほえろ!』(72~86年)のジーパン刑事でブレイク中の松田優作が、脇役で出ていた事はあまり知られていません。
公害が社会問題化していた70年代、舞台は煙突から煙を吐きまくる京浜工業地帯に近接する小学校。6年1組の新太(阿部仁志)の家は仕出し弁当屋で、父親(牟田悌三)と母親(谷口香)、撮影時15歳の原田美枝子が演じる長女の4人家族。原田美枝子は、若い人には石橋静河の母と言った方が通りますか。この4ヶ月後に原田は『恋は緑の風の中』で巨乳を露わにし、高校で大問題となり転校を余儀なくされました。クラスにこんな子がいたら、男子らは悶々として授業どころではなかったと推測されます。そしてもう一人、住み込み従業員の小松が松田優作でした。同時期に犯人を殴る蹴るしていた暴力刑事の印象が強すぎて、弁当屋の白い制服が全く似合いません(笑)。
ある日、新太のクラスに岩手県から良子(鈴木典子)が転校してきます。だが空気の澄んだ地方から来た良子はたちまち喘息を罹い、掃除当番を免除された事情を知らないヤンチャ小僧の新太に「サボるな! 仮病!」と放課後の校庭でボールをぶつけられるのでした。ツインテールが可愛らしい良子ですが、オシャレしたい年頃なのに家が貧乏で毎日同じ服で通学。ペットのリスを飼育する事だけが唯一の楽しみです。転校当初は朗らかだった良子は、喘息の発症を境に無口となりボッチになってしまいます。そこで先生(地井武男)は席替えを行い、良子の明るさを取り戻そうと元気な新太を隣り合わせにします。最初は「病気の子なんて絶対ヤダ! 喋らないし顔色悪いし気味悪い」と拒絶していた新太ですが、「君を男と見込んで」という先生の殺し文句に改心します。得意のサッカーに誘い、秘密基地にしている空き地の廃バスに良子を連れ込みお医者さんごっこを......しませんよ! 二人の間にこちらが期待する下世話な感情は一切芽生えません。「文部省選定映画」だし。
新太に心を許し始めた良子は、ハブられた真相を告白します。良子が発症すると、急に女子達がよそよそしくなります。良子は自宅に皆を誘わないからだと考え、母親に頼み込みお誕生日会を開く事にしますが、当日は誰も来ません。良子が招待した子らの家を回るとどこも不在で、最後に金持ちお嬢様の家に行くと、全員で集まって楽しそうにオヤツを食べて遊んでいるのが外から窓越しに見えるではありませんか。なんと母親同士が申し合わせ、子供らを喘息持ちの良子と遊ばせないようにしていたのです! 傷心の良子は帰宅すると、テーブルの上に用意された、極貧でも娘のためにと母親が奮発したバースデーケーキにグチャッと両手を付いて潰し、顔を伏せて号泣......お父さん(筆者)、もう見てられません!
これを聞いた新太は翌日の教室で金持ちお嬢と大喧嘩し、家でこの件を姉に話すと「良子ちゃんには可哀想だけど、それが世間の常識ってもんじゃないかしら。病人がしょうちゅう家に来てウロウロされたら誰だって鬱陶しいもの」(汗)とドライです。だが姉は弟を捨て置かず「成績を上げて良子を家に呼ぶ事を許してもらえば」とアドバイス。その日から人が変わったように猛勉強を始めた新太に驚いた小松は「おい、頭の方は大丈夫か? 分かんない事あったら教えてやるよ」。そして帰宅中の新太をラーメン屋に連れて行き、机に向かっていれば「陣中見舞いだ」とタイ焼きの差し入れをして弟のように可愛がるのでした。
しかし真意を知った母親は「変な咳をする子がウチに出入りしてると世間が知ったら、ウチはもう終わりなんだよ」。その言葉に新太は深く傷付き、さらに急性盲腸炎で入院して散々な目に遭います。新太が心配な良子は毎日病院に来ては外から病室を見上げるだけで、退院しても彼の家を遠巻きに周辺を歩き回るだけ。それを新太の母親に気付かれると走って逃げてしまいます。良子のいじましい姿を見るに忍びなくなった母親は、ついに窓から「いらっしゃい! さあ」。驚いた良子は逃げてしまいますが、家に来た時に新太が可愛がってくれたリスを御見舞に持参して戻ってきます。
ここからは一気に雪解けです。求心力のある新太を中心にクラスは一つにまとまり、子供達の純粋な友達想いに賭けた先生の作戦は見事に成功したのです。だが運命は残酷、良子は病気療養のため両親と離れて岩手の叔父の下で暮らす事になりました。ちなみに良子の伯父役の下川辰平は『太陽にほえろ!』ではジーパンの先輩「長さん」で、先生役の地井武男もベテラン刑事「トシさん」。ここに七曲署の刑事3人が揃い踏みしたわけです。さて、急な良子の転校にクラスメイト達はショックを受けますが、夏休みに九十九里浜へ皆で行く約束が交わされ大団円......と思った筆者が甘かった!
1か月後の朝、始業前に新太が大声で、近況を伝える良子の手紙を皆に読んで聞かせています。そこへ先生が沈痛な面持ちで現れ、子供達の顔を見回し「全く突然の事で、みんなに何と伝えていいのか分からないんだが......夕べ遅く良子ちゃんが亡くなった」。新太を始めクラス中に衝撃が走り、筆者もガーン。先生は1分間の黙祷をさせた後「はい、国語の教科書出して」って、えー(汗)、そんな早い切り替え無理です! 翌年、中学に進学した新太は九十九里浜へ行き、「ともだち」と砂文字を書いて、リスをカゴから出して放してしまいます。別れを表現した演出でしょうが、ペットを捨てちゃダメですよ! 良子の形見だし、最後まで責任もって世話しなさい。それに、すぐカラスか野良猫に狩られてしまいますよ(汗)。エンディングでは明るい音楽が流れ、後ろの黒板に貼られた見覚えのある卒業生の自画像が一人ずつ映し出されます。そして最後の1枚は「安らかに眠れ」と添え書きされた良子でした......。
作品は1975年度ベオグラード国際児童映画祭でグラン・プリのユニセフ大賞を受賞しました。監督の澤田幸弘は日活アクション映画の名匠で、テレビでも松田優作とは『太陽にほえろ!』以降、『大都会PART2』(77〜78年)や『探偵物語』(79~80年)などで何度も組んでいます。また面白い事に『ともだち』の同年に同じ日活で、澤田監督は『あばよダチ公』を松田優作主演で撮っているのです。偶然にしては興味深い「友達」繋がりでした。『ともだち』はビデオ化もされない幻の作品でしたが、2016年「松田優作DVDマガジン Vol.39」に収録され初DVD化を果たしました。『ともだち』と『あばよダチ公』をまだ観ていない優作ファンの方は、ぜひ両作品を連続鑑賞して松田優作を「補完」してみてください。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた) 
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。
  
  
  

  
  
