『ミーツ・ザ・ワールド』歌舞伎町で描かれる個性豊かな人々との出会い

『ミーツ・ザ・ワールド』 10月24日(金)全国公開
芥川賞作家・金原ひとみの小説「ミーツ・ザ・ワールド」が映画化され、注目を集めている。原作は第35回柴田錬三郎賞を受賞しており、金原作品の映画化は17年ぶり。舞台は東京・歌舞伎町。主人公の由嘉里(杉咲花)が、日常に閉塞感を抱えながらも新たな出会いを通じて自分自身と向き合う姿を描く。
物語の主人公、27歳の由嘉里は、擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」を愛する一方、自分のことは好きになれず、仕事と趣味だけで生きることに不安と焦りを感じている。そんな彼女が出会う歌舞伎町の住人たちは、個性豊かな人物ばかり。希死念慮を抱えるキャバ嬢・ライ(南琴奈)、既婚者で不特定多数から愛されたいホスト・アサヒ(板垣李人)、人が死ぬ話ばかりを書く毒舌作家・ユキ(蒼井優)、そしてすべての人を受け入れるBAR「寂寥」の店主・オシン(渋川清彦)が登場する。
登場人物は少ないものの、一人一人のキャラクターの濃さは圧倒的だ。互いに一定の距離を保ちつつも、孤独を抱える者同士として寄り添う姿が描かれ、歌舞伎町という街の特性も相まって、独特の人間関係の深みが生まれている。登場人物たちは他人の言動を否定せず、価値観の違いを理解して受け入れる姿勢を見せることで、観る者に思いやりや共感の大切さを感じさせる。
劇中に登場する「ミート・イズ・マイン」は、物語の重要なモチーフであり、劇場公開にあわせて公式ホームページやMVも制作されるなど、リアルな存在感を持つ。
さらに、シークレットな登場人物もエンドロールで探してみると面白さ倍増。細部まで作り込まれたキャラクターたちのやり取りに、ずっと引き込まれる作品だった。
本作は、登場人物が少数であることを逆手に取り、それぞれの心情に寄り添う時間を丁寧に描いた作品だ。日常の閉塞感を抱えながらも、新しい出会いや経験を通じて自己と向き合う若者の姿は、現代社会に生きる観客にとっても共感を呼ぶ。歌舞伎町という多様性にあふれる舞台を背景に、孤独と絆、自己肯定の物語を描いた本作は、映画館でじっくりと味わう価値のある作品となっている。
(文/杉本結)
『ミーツ・ザ・ワールド』
10月24日(金)全国公開
監督:松居大悟
原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫 刊)
出演:杉咲花、南琴奈、板垣李光人、蒼井優、渋川清彦、筒井真理子
配給:クロックワークス
2025/日本映画/126分
公式サイト:https://mtwmovie.com
予告編:https://youtu.be/Oc5kQ8n_-4Y?si=-nH3sl3eBHkFGz6p
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会