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伝説を生んだ"5人目のビートルズ"『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』

『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』 9月26日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

本作は、世界的に有名なバンド「ビートルズ」を陰で支え、"5人目のビートルズ"とも呼ばれたマネージャー、ブライアン・エプスタインの物語である。ビートルズといえば長い活動期間を想像していたが、実際は1962年のメジャーデビューから1969年のジョン・レノン脱退まで、わずか7年ほどしかなかったと知り驚かされた。

ブライアンはユダヤ系の家庭に生まれ、家業の家具店で働きながらレコード部門を成功させる中で、リヴァプールの地下クラブ「キャヴァーン」で無名のバンド、ビートルズと出会う。彼は彼らのマネージャーとなり、デビューシングル『ラブ・ミー・ドゥ』から全英1位を獲得した『フロム・ミー・トゥ・ユー』へと導き、さらにアメリカ進出を成功させる。

しかし私生活では、ゲイであることを隠さねばならない苦悩や、恋人の裏切り、薬物依存といった困難に直面。父の死やバンドとの距離感にも悩みながら、32歳という若さで薬物の過剰摂取により命を落とした。死の前日、友人に「世界の頂点にいる気分だ」と語った彼は、ポール・マッカートニーに「5人目のビートルズ」と称された。

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ブライアンを知るほどに、彼のビートルズへの愛情がいかに深かったかが伝わってくる。ただのビジネスではなく、見つけた原石を磨き上げ、世界に送り出そうとする姿は"ワンチーム"そのものだった。劇中で彼が口にする「最初はみんな素人さ」という台詞も心に残った。華やかに見える世界の裏で彼が抱えていた苦悩は、時代が違えばもっと報われていたのではないか、と考えさせられる。厳格に見えた両親もまた、当時としてはごく普通の反応だったのだろう。価値観や時代背景の違いが胸に迫った。

驚かされたのは、ビートルズのメンバーを演じる俳優陣のそっくりぶり。特別な紹介がなくても誰が誰か自然にわかり、仕草や利き手まで細やかに本人に寄せていたのが印象的だった。

ブライアンの早すぎる死は、バンド解散の引き金になったとも言われる。実際、彼の死後は経営が混乱し、音楽性の違いを調整できる存在もいなくなり、関係が悪化していった。『Let It Be』制作時のドキュメンタリー映像からは、名曲が生まれる裏側でのギスギスした空気が痛いほど伝わってくる。あの輝かしい曲が、緊張感の中で生み出されたと知ると少し切なくなる。

本作を通じて、ビートルズという伝説を違う角度から見つめ直せたのは、とても貴重で有意義な体験だった。

(文/杉本結)

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『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
9月26日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

監督:ジョー・スティーヴンソン
出演:ジェイコブ・フォーチュン=ロイド、エミリー・ワトソン、エディ・マーサン
配給:ロングライド

原題:MIDAS MAN
2024/イギリス/112分
公式サイト:https://longride.jp/lineup/brian
予告編:https://youtu.be/_LGa0uoEvws
©︎STUDIO POW(EPSTEIN).LTD

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