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地域活性映画で終わるにはもったいないほどの傑作!『わたのまち、応答セヨ』

『わたのまち、応答セヨ』 5月2日(金)新宿シネマカリテ ほか全国ロードショー

本作は地域活性のために製作された映画。舞台は愛知県蒲郡市。
これだけ聞くと映画を鑑賞しに行く人も限定されそうだが、鑑賞後一番にただのご当地映画で終わるにはもったいないほど良いものを見せてもらったと感動した。
ナレーションを岸井ゆきのさんが担当していて、「アトムの童」という岸井ゆきのさんが出演していたドラマを思い出していた。廃業寸前の工場が新たな可能性を信じてひとつのゲームをうみだしていくストーリーが本作と被ってみえた。廃れてしまった街の産業を復活させるために動き出した熱い物語だった。

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三河地方は1200年前、日本に初めて綿花がもたらされた街。戦後、衣類が不足する中、織れば飛ぶように売れた空前の好景気で朝から晩まで街のあちこちで「ガチャン、ガチャン」と音が鳴り響いていた。当時は2000,3000という機織りの会社があった。しかし、2000年代に入るとかつての活気は失われ、織機の音も聞こえてこなくなっていた。現在では100分の1以下まで会社の数は減り機織りの音は街から消えてしまっていた。そんな中、わたを種から育て紡ぐ80歳の職人と出会い、映画作りがその職人の背中を押し、街を揺さぶり、人々の眠っていた情熱が燃え上がっていく。そして、まさかの舞台は蒲郡からロンドンへ怒涛の如く展開し、日本のモノ作りの本気が、海を越えて人々の心を掴み、「繊維の街」に奇跡をもたらす。

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現代のファッションはファストファッションという安価に買って流行り物をワンシーズン楽しむというスタイルが主流になっている。良いものを長く大切に使うことの魅力を発信する人もたくさんいるが、厳しい経済状況の中でどうしても安価な洋服に手は伸びがちであることは否めない。
そんな時代の中にいても、おしゃれな人の共通点はひとつひとつの持ち物にこだわりやときめきを感じて持っている。それは値段ではなく自分が好きか嫌いかという取捨選択がしっかりできているということである。500円のアクセサリーでもそんな人が身につければどんなブランドものよりおしゃれアイテムに早変わりだ。

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今回、本作を鑑賞して「三河木綿」に非常に強く関心を持ち調べてみた。柔道着として使われることも多い三河木綿。三河木綿で作られた洋服は手の届かない値段でないこともわかった。バッグやエプロン、スマホポーチといった小物は母の日に送ってもいいかもしれない。

物作りにかかわる生産者の思いを知ることは、ものを大事にすることに繋がると作品を通じて痛感した。三河木綿は日本だけのものではない。日本人にしか生産できない、世界に通じる可能性を秘めたものだった。劇中で糸を持ちながら「向こうの景色まで綺麗にみえる」と言っていた言葉が心の中に残っていた。台詞ではない、心の底からでてきた言葉だからこそ胸に残るものがあったのかもしれない。

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幅広い年代、多くの人に鑑賞してもらいたいと思った。自分のしていること、今日が明日に繋がっていると熱い気持ちにさせてくれる作品だった。日曜劇場が好きな人にはハマる物語が本作の中にはあると思う。明日、頑張ろう!と背中をおしてくれる作品になっていた。

(文/杉本結)

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『わたのまち、応答セヨ』
5月2日(金)新宿シネマカリテ ほか全国ロードショー

監督・撮影・編集:岩間玄
語り:岸井ゆきの
配給:鈴正 JAYMEN TOKYO

2024/日本映画/99分
公式サイト:https://watanomachi.com
予告編:https://youtu.be/D3Xw6Pa0qPI
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