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あの日、見上げた星の記憶『この夏の星を見る』

『この夏の星を見る』 7月4日(金)全国公開

直木賞作家・辻村深月氏による青春小説『この夏の星を見る』(角川文庫/KADOKAWA刊)が、待望の映画化!
この小説を読んだときから、もしも実写化されたらどんな配役になるのだろう?と想像しながら読んでいました。東映アニメーションと東映の企画力で世界市場を意識したオリジナル映像企画などを開発・プロデュースする、FLARE CREATORS第1弾プロデュース作品ということで、期待度の高さもうかがえます。

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2020年は、誰もが経験したことのない時間を過ごしたことでしょう。
未知のウイルス『新型コロナウイルス』が世界中で猛威をふるいました。死者が出ながらもワクチンがない状況に恐怖を感じる日々。学生たちは緊急事態宣言が出て学校へ行くこともなく、オンライン授業を受けたり、修学旅行の中止、楽しみにしていた行事が次々と奪われる結果となりました。
そんな中でも工夫をして、オンラインでもできる方法を模索し、全国の学校がオンラインで繋がって行われた「スターキャッチコンテスト」。この競技の存在を知ったのは、本作の原作を読んだ時でした。映画を観て初めて知るという人も多いかもしれません。
星の位置を把握し、出題者に指定された星を瞬時に探し出し、望遠鏡で早くとらえたチームに点数が入るという競技です。必死にできることをする学生の姿に胸が熱くなりました。

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マスク姿の登場人物に、コロナ以降に感じた「マスクで表情が読みとれない」と思ったモヤモヤが鮮明に思い出されました。近所で感染者が出たときに噂が広まる空気感もリアルでした。徐々に薄れていったけれど、最初の頃は「もしも自分や家族がかかったらどうしよう」という恐怖心もあったように思います。忘れかけていた感情と、5年という月日を経たからこそ、もう一度向き合ってみるのもありだと思えました。

あの時、確かに感じていた―
誰のせいでもない。だけど会いたい人に会えない。行きたい場所に行けない。他人の目が気になり、風邪をひくことにも怯えて頻繁に消毒をして過ごす。そんな日々の中で抱いた、行き場のない感情が蘇ってきました。

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地球規模で起こったパンデミックにリアルに遭遇した私たち。その時に感じたことや、したいと思ったことが、今ならできるかもしれない。だけど、学生でいられる期間は短く、貴重な時間。毎日同じ学校、同じ教室に通っていた、当たり前のように横にいた人でも、卒業してしまうと意外と集まることが容易ではなくなることを知ってしまった。

そんな今、鑑賞するからこそ、学生時代という大切な時間の中で失ってしまったものは、あまりにも大きかったと言わざるを得ません。ネガティブな気持ちになることがあったとしても、自分自身にできるすべてを使って楽しもうとする登場人物ひとりひとりが、「青春」をしていました。
鑑賞後、「夏の大三角形ってなんだっけ?」と考えながら歩いた、素敵な作品でした。

(文/杉本結)

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『この夏の星を見る』
7月4日(金)全国公開

監督:山元環
原作:辻村深月「この夏の星を見る」(角川⽂庫/KADOKAWA刊)
出演:桜田ひより、水沢林太郎、黒川想矢、中野有紗、早瀬憩、星乃あんな 他
配給 : 東映

2025/日本映画/126分
公式サイト:https://www.konohoshi-movie.jp
予告編:https://youtu.be/M1I588iK5BQ
©2025「この夏の星を見る」製作委員会

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