もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2024年9月号

『憐れみの3章』 (9/27日公開)より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』三十七回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
9月公開の映画からは、この四作品を選びました。

『ナミビアの砂漠』(9月6日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/namibia-movie/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=1ON52PRB8Tc

 『あみこ』で注目された山中瑶子監督と『不適切にもほどがある!』でお茶の間でも知られることになった河合優実主演による『ナミビアの砂漠』。
 21歳のカナ(河合優実)は趣味もなく、将来の夢も特になく、全部がつまらないと感じていた。そんなカナには彼氏がふたりいるようです。「お前が決めることじゃねえだろ。私が決める」という怒りを感じる彼女のセリフを予告編で聞くことができます。
「私中絶したんだよね」と言うカナ、そのセリフとともに「いじわるで」「嘘つきで」「暴力的。」「そんな彼女に誰もが夢中になる!」という字幕が出てくるのも、今までの日本映画の女性像とは違う魅力を表しているようです。
 ここからは妄想です。予告編の河合優実を見ていると「新時代のアイコン」と言われても納得しかなく、彼女の顔は山口百恵さんや石原さとみさんを彷彿させます。「不機嫌な菩薩」という言葉が浮かんできました。
 ナミビアには多くの野生動物がいて、ナミブ砂漠が有名です。「ナミブ」はサン人の言葉で「何もない」という意味のようです。そう考えるとこの作品のタイトルは「何もないカナの物語」とも言えます。「何もない」ということは「何でもあり」に転化する可能性もあります。ラストシーンはナミブ砂漠にやってきたカナが「何にもねえ!」と叫んで、そんな自分がおかしくて笑ってしまうと言うのはどうでしょうか?

『ナミビアの砂漠』
9月6日(金)公開
配給:ハピネット・ファントムスタジオ

『平家物語 諸行無常セッション』(9月7日公開)
公式サイト:http://heike-syogyomujo.com/
予告編:https://youtu.be/7xonnvI9h3s?si=wbAVufFJ8EnlX8jS

 2017年5月28日に高知県五台山竹林寺で行われた作家・古川日出男×サックス奏者・坂田明×ロックミュージシャン・向井秀徳(ZAZEN BOYS)が共演した一夜限りのライブセッションを河合宏樹監督が映画化した『平家物語 諸行無常セッション』。
 古川日出男が現代語訳した『平家物語』はアニメ化され、その現代語訳から派生した小説もアニメ映画『犬王』として公開。また、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』もあり、「平家ブーム」が巻き起こったのは記憶に新しいところです。
『平家物語』とは一人の語り部ではなく、複数の琵琶法師たちが語り継いで、それぞれがアレンジなどを加えていったいくつもの「ヴォイス」がある作品です。もちろん源平合戦も描かれますが、京都に大地震が起きるなど災害小説とも言えます。故にこの時代に求められたのではないかと思っています。
 ここからは妄想です。というところなのですが、私は竹林寺に足を運んでこのライブセッションを目撃しています。今回は予告編のことにほぼ触れていないのですが、劇場でぜひ鑑賞してほしいです。
 竹林寺は四国八十八箇所の三十一番札所であり、セッション中に暮れていく空の色、鳥たちの声、三人の声とリズム、奏でられる音楽、なんというか「幽玄」というものはこういう瞬間なのかと感動しました。この映画は観て聴く、そして体験する作品です。ぜひ大きなスクリーンで浴びてください。

『平家物語 諸行無常セッション』
9月7日(土)公開
配給:K3企画

『ぼくのお日さま』(9月13日公開)
公式サイト:https://bokunoohisama.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=rzmKFW5Uf1c

1_main.jpg 長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』でサンセバスチャン国際映画祭「最優秀新人監督賞」を受賞した奥山大史監督の長編二作目、商業デビュー作となる『ぼくのお日さま』。
 ある田舎町のスケートリンクを舞台に、選手の夢を諦めたスケートのコーチ(池松壮亮)、吃音をもつホッケーが苦手な少年(越山敬達)、コーチに憧れるスケート少女(中西希亜良)の三人を軸に描いた物語のようです。
「雪が降り始めてから、雪が溶けるまでの小さな恋の物語」というナレーションと共に、少女がコーチとその同性の恋人とのやりとりを見ている怒りにも悲しみに似た表情で見ているシーンも予告編にあります。
 ここからは妄想です。少年は少女に恋し、少女はコーチに、コーチには恋人がいる。メインの三人の恋心は一方通行であり、「小さな恋の物語」と言われているように小学生の二人にとってはこれが初恋なのかもしれません。そんな中、ペアでスケートを滑る小さな二人の恋は叶わないで終わるのでしょう。
 ひと冬の物語とアナウンスされているように、冬が終わると同時に少年はホッケーに戻り、コーチも違う土地へ、成長した少女だけが氷上で踊り続けているそんなラストシーンかもしれません。タイトルに「ぼくの」とあるので少年の視点から描かれるとすれば、少し大人になって少女に会いに行こうとするラストシーンというのもあり得そうです。

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『ぼくのお日さま』
9月6日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテにて先行公開
9月13日(金)全国公開
配給:東京テアトル
©2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

『憐れみの3章』(9月27日公開)
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/kindsofkindness
予告編:https://youtu.be/sh7_XgIa6oA

★メイン005_AND_20221208-00309.jpg 第96回アカデミー賞で4部門を受賞した『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス監督と主演のエマ・ストーンを含めたキャストとスタッフが再集結した『憐れみの3章』。
 エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママデゥ・アティエ、ハンター・シェイファーと予告編では出演者たちの名前がクレジットされていきます。この作品は一本の長編ではなく、選択肢を取り上げられて何とか自分の人生を取り戻そうとする男、海難事故で帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官、奇跡的な能力を持つ特別な人物を探す女、という三つの物語で構成されています。
 ここからは妄想です。と言いたいのですが、実は試写で一足早く観ることができました。『哀れなるものたち』を期待していくと、肩透かしを食らわされるような内容ですが、奇想天外な話で予想もつかないおもしろさです。
 また、キャストは三つの作品ごとに違う人物を演じているので、観ていると違う物語が脳内で繋がっていく、混じり合っていくようなトリップ感もあります。ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンの三度目となるタッグということもあり、自分たちがやりたいことを誰にも邪魔されないで作っているのが伝わってきて嬉しくなってしまいました。想像を超える物語が観たい人はぜひ劇場で!

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『憐れみの3章』
9月27日(金) 全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。

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