芥川賞作家・西村賢太の素顔と暴力、そして死――元恋人が記した3547日

西村賢太殺人事件
『西村賢太殺人事件』
小林麻衣子
飛鳥新社
1,900円(税込)
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 『暗渠の宿』『雨滴は続く』といった著作を持ち、2011年には『苦役列車』で芥川賞を受賞した作家・西村賢太さん。中卒、無職など社会の底辺に生きる「破滅型」の私小説家として人気を博しましたが、2022年、心疾患により54歳の若さで亡くなりました。

 今回紹介する『西村賢太殺人事件』は、元恋人である小林麻衣子さんが、西村さんと過ごした約10年間を述懐したノンフィクションです。

 2011年、持病のIBS(過敏性腸症候群)を悪化させ、15年勤めた会社を退職した鬱屈した小林さんは、鬱屈した日々のなかで西村さんの著作に出会い、強い関心を抱くようになります。翌年、西村さんのトークショーに足を運び、そこで自身の電話番号を渡したことをきっかけに交流が始まりました。2013年末からは半同棲生活が始まり、西村さんが新幹線で小林さんの住む岡山を訪れ、彼女のマンションで月の半分ほどを過ごす生活が続いたといいます。

 本書の特徴の一つは、小林さんの視点を通して、作家・西村賢太の私生活が具体的に描かれている点です。人見知りで散髪店が苦手だった西村さんが、帰京の数日前になると「今日ぐらい、そろそろ、つまんでくれっかい?」と小林さんに散髪を頼んでいたこと。「みち子」という名の犬のぬいぐるみを気に入り、毎晩一緒に寝ていたこと。朝になるとトマトジュースとコーヒーを小林さんに運ばせ、布団の中でうつ伏せになりながら煙草を吸い、一時間ほど思索にふけっていたこと。どれも、西村さんの人間臭い一面や創作活動の裏話を知ることができるエピソードばかりです。

 一方で、本書では西村さんが小林さんに対して暴力を振るっていたことも明かされています。相性の良さや愛情、恩義を感じていたとしても、暴力のある関係を続けることはできなかったと小林さんは述べています。

「そうして私は別れ、けんけんは死に、私には悲しみと罪悪感が残された」(本書より)

 この罪悪感や後悔は、「自分が見捨てたことで生活がすさみ、結果、病気で亡くなったのでは」との思いからきているのではないか。そんな読者の想像を軽々と超えてくるのが本書の凄まじいところ。

 最終章となる第十章「西村賢太殺人事件」では、西村さんの死について、小林さん自身が「私にとっては十分に不審死たり得たけんけんの死」(本書より)と受け止めていることが記されています。

 「『自分の人生に責任、持てよ』 これがなかったら、ここまで書けなかった」(本書より)と西村さんからの言葉を引用して記している通り、強い覚悟をもって書かれたであろう本書。ただの手記や暴露本の類とは一線を画したノンフィクションとして、話題になるのもうなずける一冊です。

[文・鷺ノ宮やよい]

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