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【無観客! 誰も観ない映画祭 第52回】『リメインズ 美しき勇者たち』

リメインズ 美しき勇者たち
『リメインズ 美しき勇者たち』
千葉真一,真田広之,松村美香,菅原文太,蟹江敬三,長門裕之,南田洋子,奈美悦子
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『リメインズ 美しき勇者たち』
1990年 松竹 107分
監督/千葉真一
脚本/佐藤繁子
出演/真田広之、菅原文太、村松美香、黒崎輝、夏八木勲、長門裕之、南田洋子、奈美悦子、蟹江敬三、高部知子ほか
ジャパンアクションクラブ20周年記念映画

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「熊害」と書いて「ゆうがい」と読みます。英語では「ベア・アタック」ですね。前回の『グリズリー』に引き続き、今回は日本の熊映画を紹介します。痛ましい熊害が起きるたび、報道や特番などで「日本史上最悪の熊害」として繰り返し紹介されるのが、北海道三毛別(さんけべつ)羆事件。1915年(大正4年)12月9日から14日にかけて、苫前群苫前村三毛別(現・苫前町三渓)の開拓民集落を巨大ヒグマが襲撃し、死者7人、負傷者3人を出しました。妊婦がヒグマに発した「腹、破らんでくれ!」は悪夢のような状況を現わす台詞として語り継がれ、今では苫前町立郷土資料館に事件を復元した実物大ジオラマが展示されています。

 この事件は小説・漫画・ドラマ・映画と様々なメディアで題材にされ、JAC(ジャパンアクションクラブ ※現JAE)の創始者・千葉真一も企画を立てました。俳優一本できた千葉がプロデューサー業に挑戦しようとした時期で、今まで多くの作品に出演して気心の知れている深作欣二に監督を依頼しました。だが「JAC20周年だし、君がやってみろよ」と深作監督が背中を押し、一転して千葉真一初監督作品となったのです。深作は企画監修に関わり、撮影には自分の助監督まで付けて参加し、丸投げせずバックアップしました。

 なので作品は『グリズリー』のような単なる動物パニック映画ではなく、JACメンバーで構成されたマタギ(北海道・東北の狩人)の集団アクションによるヒグマとの死闘が最大のウリです。その筆頭が、師匠・千葉真一の後継者として既に一本立ちしていた真田広之。共に戦うマタギ衆の中には、時代劇『影の軍団』シリーズ(80~85年)の忍者役、特撮ドラマ『巨獣特捜ジャスピオン』(85~86年)では主演を務めた黒崎輝。そしてヒロインはJACから紅一点の村松美香。既にテレビでは『ジャスピオン』の敵役キューティークイーンで黒崎と共演、本作が劇場映画デビューとなりオープニングでは「新人」とテロップされました。アクション監督は、数多くの特撮ヒーローを演じてきた金田治。JACの師範とも言え、現在はJAE(旧JAC)代表取締役です。時代設定は三毛別事件と同じ大正末期で、北海道のニセコ地域でロケが行われました。

 動物パニック映画の多くは、前半でその動物の一部だけ見せるなどして観客を焦らしますが、そんな手は古いとばかり千葉新人監督は出し惜しみしません。映画が始まるや否やヒグマが就寝中の若い夫婦を襲撃し、二足で立つ2メートル超のヒグマ(着ぐるみ)が旦那に右フックを見舞うと、頭部左上がフッ飛んで脳ミソ丸出しになります。翌朝、村に半鐘が鳴り響き、銃や鎌を手にした村人らが雪面に点々と血の付いたヒグマの足跡を追います。やがて嫁の衣服が散乱していて、前方から「ガリガリ......ゴリゴリ......ペチャ......」と不気味な音が聞こえてきます。数十メートル先の藪に赤い寝間着が見え、人の腕が揺れています。ヒグマ(本物)が嫁を食べていたのです。

 ここでタイトルについてですが、当初意味も知らず「リメインズって何? リメンバー的な? カッコつけないで、もっと熊退治らしい分かりやすいタイトルにしてよ」なんて思っていました。西村晃主演の『マタギ』(82年)という、そのものずばりな作品もあるくらいですから。だが意味を調べたら「遺物、残骸、遺体」......。え? ひょっとしてヒグマの食い散らかした人間の......。それとも山の掟とか古いモノを表す深い意味が......追求するのやめておきます。

 そこへヨソ者のマタギ集団が現れます。リーダーの嘉助(菅原文太)以下、鋭治(ヒゲ面の真田広之)、サブ(黒崎輝)ほか2名で組織された五人衆です。嘉助は村人に「奴はオナゴしか食わねえアカマダラだ」と言い、1年前に自分達の住む鷹の爪集落で同じヒグマに12人が殺され、うち女性だけ5人が食われ、その仇を取るため追ってきたのです。そう言えば『グリズリー』でも、女性の犠牲者が多いと言及されていました。さて、ここで筆者は彼らを「猟師戦隊マタギファイブ」と勝手に名付けます。

 マタギファイブに追い詰められたヒグマ(本物)は、銃を構える鋭治に向かって突進してきます。だが突然大型犬がヒグマ(着ぐるみ)に飛び掛り、立て続けに謎の乱入者が銃撃! 獲物を横取りされた鋭治が怒ると、それは若い女でした。「違う! こいつはアカマダラでねえ」と鋭治を睨む女は、幼馴染みのユキ(村松美香)だったのです。1年前、両親と弟をアカマダラに殺されたユキは復讐を誓いますが、入山は女人禁制というマタギの掟があるため、頭の嘉助は頑として認めなかったのです。翌朝、完全武装したユキは犬のメルを連れて彼らの後から付いてきます。鋭治が「村八分になるぞ」と追い返しても、ユキは「オラ男になった!」とバッサリ短髪にしてきたのです。もともと村松はボーイッシュなので、勇ましい格好が似合います。

 嘉助が次にアカマダラが狙いそうだと立ち寄った村は、運悪く祭りの真っ最中。誰が見ても小汚い少年に成り切ったユキも、メルを連れ付いてきています。そこへ予感的中でアカマダラ(着ぐるみ)が出現し、よろず商店の親父(蟹江敬三)の頭の弱そうな新妻をくわえて走り去ってしまいます。村は楽しい祭りから急転、大パニックに! マタギファイブと消防団らが血の跡を追って山へ行くも、哀れ新妻は散乱する着物の切れ端と髪の毛などを残すだけで、それを夫は泣きながら集めるのでした。この新妻を演じたのは、『欽どこ』(82~83年)や『積み木くずし』(83年)でブレイクした直後、「ニャンニャン事件」など色々あり過ぎた高部知子。なんと現在は精神保健福祉士としてカウンセラーで活躍中とは! 以上が1年前の出来事で、鋭治とユキはそれ以来の再会だったのです。

 嘉助は、ここで食い止めるべく最後の勝負に出ます。村の年配者と女子供を他の村に一時集団避難させ、無人の各家屋に4人を別々に潜ませ、1人ずつで戦う作戦です。嘉助だけは外で、木の根元に掘った雪穴から首だけ出して陣取ります。これは最後に美味しいところを見せようというポジショニングでしょう。それとも死亡フラグか。鋭治が女物の衣服を家の中にばら撒いているところへユキが現れ「そんなのより本物のオナゴの方が効くだべーよ」と、着物をバッと脱ぎます。その下は自家製のビキニ! というかアメリカ映画によく出てくる女原始人スタイルです! 無い無い、北海道の雪山ですぜ〜! 千葉ちゃん、やったな(笑)? さらに弾帯ベルトを肩から袈裟掛けにし、その上から肩簑を羽織る珍妙スタイル。これでピンクが加わりマタギシックスになりました!

 家の周囲を歩き回り突入のチャンスを伺うアカマダラ(本物)は窓や壁板を順に割り、手を伸ばし女物の着物を次々と取っていき、徐々に家を破壊していきます。そして、ついに天井をブチ破って中へ! アカマダラ(着ぐるみ)は、世界チャンピオン井上尚弥の10倍は威力ありそうなハードパンチで簡単に柱をへし折り、実際にそうである巨体に似合わない軽快なフットワークで銃の標準も定まりません。きわどい衣装で転げ回るユキのアチコチにもハラハラしますが、圧倒的パワーで壁に叩きつけられます。ユキに向ってくるアカマダラよりも速く鋭治が駆け寄り、槍を一緒に握りガッチリ固定。その槍先にアカマダラの胸がカウンターで深々と刺さります。死闘の振動で彼らの上に屋根が落ち、家が倒壊します。鋭治はガレキの中からユキを救い出し、そっと雪面に寝かせます。腹やフトモモ丸出しの村松美香、極寒に耐えてます! 鋭治はユキの肩を抱きながら「アカマダラの熱い血が雪を溶かして湯気を立てている。マタギの間では、天さ昇っていくと言われてる」。それにユキが「アカマダラも神様になっただか......」。メル「アオ〜ン」。アイヌ民族の間でヒグマはキムンカムイと呼ばれ、それは山からの授かり物という意味での神なのです。おっと、雪に埋まってる文太アニイの見せ場、全くありませんでした(泣)。エンディングには村松美香の歌う『リメインズ』が流れます。

 本物のヒグマと対峙するシーンは、調教されているとはいえ万全を期し、俳優が二枚重ねにした厚さ2センチの防弾ガラスで作った檻の中に入って撮影するという念の入りようでした。そして冬の北海道で雪の中、あの薄着衣装で頑張った村松美香は、第14回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞するのでした。アッパレ!

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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