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学びの多い作品!『僕らの世界が交わるまで』

『僕らの世界が交わるまで』 全国公開中

『ムーンライト』や『ミッドサマー』、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』など、いま最も信頼される映画スタジオといわれているA24が手がけた最新作は、『ソーシャル・ネットワーク』の個性派俳優、ジェシー・アイゼンバーグの初監督作です。

彼のオリジナル脚本による本作は2022年サンダンス映画祭ワールドプレミア上映を経て、第75回カンヌ国際映画祭批評家週間オープニング作品に選出されました。また、アイゼンバーグの盟友でもある人気女優エマ・ストーンがプロデュースを務めていることでも話題となりました。

そんな本作、DV被害に遭った人々のためのシェルターを運営する母・エヴリンと、ネットのライブ配信で人気の高校生ジギーを中心とした家族の物語です。
社会奉仕に身を捧げる母親と、自分のフォロワーのことしか頭にないZ世代の息子は、いまやお互いのことが分かり合えない関係となっていました。しかし彼らの日常にちょっとした変化が訪れます。そこから、少しずつ日常に変化があらわれはじめてやがて...。

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出演は母のエヴリン役にアカデミー賞®やエミー賞に輝く名優、ジュリアン・ムーア。息子のジギー役はフィン・ウォルフハード。Netflixドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でおなじみの彼が、不器用な恋の奮闘を瑞々しく好演。劇中のYouTubeで歌われるキャッチーで親しみやすい楽曲群の多くは彼が手掛けた自作曲です。ジギーが恋焦がれる聡明な高校生ライラ役には、Netflixドラマシリーズ『13の理由』で注目された新星アリーシャ・ボーが扮しています。

サブ②WYFSTW_17378ⓒKaren-Kuehn.jpg

この作品、Z世代にもその親世代にものすごく刺さる作品となっています。その中間になる、いま子育て真っ最中という人も小さい子どもとこれからどんな衝突だったり起こるのか想像しながら楽しめます。
わかりあいたくても、最初は小さな1つの歯車の違いからだったけれど、今ではどんどん大きくズレていってしまったようなこの家族が、またズレた歯車を戻そうする。それが、かなり難しい作業になっている様子が、とても切なくなりました。
こんな時、1人だけじゃな直せないのです。家族みんなで新しい歯車を回す必要があったり、回りにくい場所のメンテナンスが必要だということに気づかせてくれる作品でした。

サブ③WYFSTW_00167ⓒKaren-Kuehn.jpg

現代社会の中で、承認欲求が強くなっている人が増加傾向にあると思います。
人に何かを認めてもらうときに、それを測る物差しとして、今フォロワーやいいねの数が1つの物差しに使われています。けれど、たくさんのフォロワーがいたり、いいねされることだけが良いことではないと、多くの人は気づいている。
そんな時に、自分が配信していることが薄っぺらいことじゃダメだという気づきを、この作品は与えてくれます。ただ、薄っぺらい自分を変えていきたい!そう思った時に近道なんてありません。勉強して本を読んで学んで、そこから自分の意見を持ってそうやって、ぶれない、自分自身を作っていくことへの教えがある作品です。

自分の周りに何かすごいことをしている人がいたとしても、真似したからといって、それが自分のすごいことになるわけではないのです。
当たり前のことなのかもしれないけど、自分のすぐ近くにすごい人がいると、真似したくなるのが人間です。それをこの映画は失敗談として見せてくれています。この映画を見て、そんな失敗もあるんだと知り、自分が失敗しないきっかけになったらいいなとも思いました。

そしてもう一つ大切なこと、自分の価値観を他人に押し付けるという事は間違っているというメッセージを感じました。価値観は絶対人それぞれ違うものなので、大切なものは人によって全然違うのです。
例えば学歴が大事な人、家族との関係が大切な人、世間体が大切な人どれも間違っているとは思いません。でも、相手にそれを押し付けてはいけないということについて、考えさせられました。自分の善意が相手にとってどう感じるものなのかまで考える必要性を感じる奥深い作品となっていました。
他人のために頑張るって素晴らしいことだけど、その裏で家族がボロボロになってたらどうなんだろう?と言うところも考えさせられるポイントでした。

家族や自分自身のアップデートの仕方についてまで考えさせられる学びの多い作品となっております。ぜひ、自分自身と静かな環境で向き合ってみてください。

(文/杉本結)

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『僕らの世界が交わるまで』
全国公開中

監督・脚本:ジェシー・アイゼンバーグ
出演:ジュリアン・ムーア、フィン・ウォルフハード、アリーシャ・ボー、ジェイ・O・サンダース、ビリー・ブリック、エレオノール・ヘンドリックス 他
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

原題:WHEN YOU FINISH SAVING THE WORLD
2022/アメリカ/88分
公式サイト:https://culture-pub.jp/bokuranosekai/
予告編:https://youtu.be/3329TyTF12k
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