もやもやレビュー

我慢は禁物『CURE』

CURE
『CURE』
役所広司,萩原聖人,うじきつよし,中川安奈,黒沢清
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ピーピー、ガタガタ、トントンなど一定のリズムで鳴り続ける音は最初のうちはあまり気にならない。ところがしばらく経っても鳴りやまないといよいよ耳障りになり、果てはイライラで爆発なんて展開を迎える人もいる。黒沢清監督の『CURE』(1997年)にも、ある音にイライラを試されている男がいる。役所広司演じる、刑事の高部だ。ある音とは、精神病を患った妻、文江(中川安奈)が、癖で毎晩のように空っぽのまま回す、洗濯機の音。高部はいつもそれをしかたなく止めている。

夜は洗濯機を止める係でも、日中は立派な刑事で、次から次へと同じ手法で人が殺害されていくという事件を担当している。奇妙なことに犯人はみんな違う人で、犯人同士の関わりはまるでない。そして逮捕されても、決まって全員あっけらかんとしている。ある日、そのすべてを操っているようにも見える間宮(萩原聖人)という男を捕まえるが、記憶喪失のように振る舞うので話にならない。計算ありきの言動だと疑ってかかるものの、高部は間宮との交流を深めていくうちに、少しずつ様子がおかしくなっていく......。高部の変わりようは、周りにいたら気づかないほど些細かもしれない。ただ、たびたび出てくる自宅でのシーンでの洗濯機への反応を見ていれば、最初とあとのほうでの違いは明らかである。

この映画を観ていると、狂気とは、まあしかたないか......と思いを押し殺すたびに、少しずつ心のどこかで膨らんでしまうのかもしれないと思わされる。膨らむ勢いが弱くて一生爆発しないことも、もちろんある。ただある程度膨張してしまっていると、洗濯機の音など、なんてことないことがいやな後押しになり、バンと爆発したりもする。考えれば考えるほど血の気が引く話なのだ。とにかく、我慢は禁物。ストレスはどんどん解消していきたいところである!

(文/鈴木未来)

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