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カンヌ国際映画祭脚本賞受賞!『怪物』

『怪物』 6月2日(金)全国公開

先日開催されたカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した本作。『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督が、「今一番リスペクトしている」と熱く語る脚本家の坂元裕二と初タッグを組んでの受賞だった。

監督自身と映画ファンの夢を叶える企画が実現したともいえる本作。坂元は映画『花束みたいな恋をした』やTVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」などで圧倒的な人気を博す、新作が待ち望まれる脚本家だ。是枝監督が他者に脚本を委ねるのは、デビュー作『幻の光』以来となる。また、音楽は『ラストエンペラー』や『レヴェナント:蘇えりし者』など海外でも第一線で活躍し、今年3月に亡くなった坂本龍一。映画史上、最も心を躍らせ揺さぶる奇跡のコラボレーションが実現した。

また、本作はカンヌ国際映画祭で脚本賞と同時にクィア・パルム賞も受賞している。「クィア・パルム賞」はカンヌ国際映画祭の独立賞の一つで、LGBTやクィア(既存の性のカテゴリに当てはまらない人々の総称)を扱った映画に与えられる賞。2010年に創設され、第63回カンヌ国際映画祭から授与が始まっている。

本作、1つのカテゴリーには収まりきることはできないほどに複雑なストーリーとなっている。だけど、理解することは難しくない。親や周囲の人間が子どもに対してどのように精神的な部分で親身に寄り添っていけるのか?ずっと問いかけられているような気持ちだった。

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舞台は大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した──。

ここに出てくる子どもがもしも自分の子どもだったら自分はどうするだろう? 様々な視点から真実に近づいていくのだが、本当の真実は本人の中にしかないものであるということを痛感させられた。劇中でも、真実を語る声はとても小さくて囁くようで聞き取れないほどだった。

鑑賞後、何日たっても答えはみつからない。どうにももやもやとした気持ちがあと引く作品だった。心の声にどうやって耳を傾けたらいいのか今もまだ私は考えている。この気持ちが世界共通なんだと今回の受賞という結果からわかった。劇場で五感を研ぎ澄ましてみて欲しい作品だった。

(文/杉本結)

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『怪物』
6月2日(金)全国公開

監督:是枝裕和
脚本:坂元裕二
出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太 ほか
配給:東宝、ギャガ

2023/日本映画/125分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/
予告編:https://youtu.be/S3XB1sFhQiA
©2023「怪物」製作委員会

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