もやもやレビュー

低予算で描かれる管理社会『アルカディア 選ばれし者』

アルカディア 選ばれし者(字幕版)
『アルカディア 選ばれし者(字幕版)』
マーク・ベイリス,トーマス・クームズ,ジョセフ・ベイカー,アリス・E・メイヤー,アキー・コタベ,トム・ラージ
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 総務省のホームページによれば、今年の5月末時点でマイナンバーカードの申請状況が人口の77%にまで達しているとのこと。マイナであれこれ便利になりますよ、というわけだが、反対の声もずっとあり、わかりやすく国民を管理できる社会を実現したいというのが、推進する側の本音なのだろうと、割と簡単に想像してしまう。にもかかわらず、別人の情報との紐付けなどのミス連発がここ最近のニュースを賑わしていおり、管理したいのかしたくないのか、どっちなのかわからなくなってしまう。

 ここから先は完全に想像だが、管理したいのが本音なのは間違いないけど、その手前に存在する、システム構築を受注する業者と癒着して中抜きしてというような、目の前のお金に目が眩んじゃってそっちに手を出しちゃって、管理そのものが疎かになっちゃっている、とかではないか。繰り返すけど想像ですよ。

 しかしお金に目が眩むのは仕方ないとしても、管理社会を描いたSFだって山のようにあるわけで、せめてそうした作品群を見て、もうちょっと参考にしてみてはいかがか。というところから、全然知らなかった管理社会SF映画を一本鑑賞してみた。『アルカディア 選ばれし者』だ。

 物語は、パンデミックを引き金として戦争が起こり、新たに立ち上がった政府によって、選ばれた一部の人々のみが「アルカディア」と呼ばれる隔離施設に移住。施設内では医療技術によって平均寿命130歳を実現するが、施設に入れない人々の平均寿命は39歳。主人公は自分と家族の施設への居住権を得るため、反政府組織に対峙する「ガーディアン」として任務をこなすこととなるが......、というもの。明らかに低予算映画のため、管理者側の世界はほぼ映像として映し出されないのが残念だが、管理社会の実現によって疲弊する施設外の人々の生活は描かれており、マイナ制度的なものを推し進めたい側にとって、それが実現した世界の理想パターンの一つとして参考になるのではないか。

 とはいうものの、管理社会SFの大半がそうであるように、本作もまた管理しようとする政府へ反抗する側の心理や行動が主題となっており、それをさらにわかりやすく描くため、反政府勢力らのちょっとした言動に管理者側がいちいち狼狽したり激昂したりするし、映像のみならずシナリオ面でも作り込みが甘いのか、描かれる管理システムやその運用方法もなんだか杜撰で非常に簡単に壊せそうな気がしないでもない。

 現実でも管理社会を推し進める側の中心的人物が気に入らない発言をする人たちをSNSで次から次にブロックすることが話題になるケースもあったりすることを考えれば、とてもじゃないけど管理社会に反対する側から描いた作品なんて不愉快すぎて落ち着いて見てらんないかもな、なんてことを思ってしまったりもする。結果、実際に管理社会を推し進めるのに最適な参考資料となるであろう管理社会SF作品群に目を通さず、それでも管理社会を構築しようとするので結果として管理社会SF作品群で散々描かれている失敗をそのまま繰り返す、なんてことも起こる、かもしれない。などということを想像した。もう一回繰り返すが、あくまで想像である。気が向いたら見てみてよ『アルカディア 選ばれし者』。もっと良い管理社会SF映画は他にごまんとあるけど。

(文/田中元)

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田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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