もやもやレビュー

差別主義者の視点で描く"ヒトコワ"『ソフト/クワイエット』

『ソフト/クワイエット』 5月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開

 多くの人が戦う「差別」という問題は、昔に比べると徐々に減ってきている印象があります。エンターテイメント業界を例に挙げても、ディズニー映画の実写版作品で"多様性"を重視し、国籍や肌の色を関係なくキャスティングしたり、アジア系俳優がオスカーを獲得したりと、私が子どもの頃に比べると、劇的な変化があったとも言えます。しかし、差別は本当になくなったのでしょうか......? アジア人として見るに堪えない恐怖を描いた作品『ソフト/クワイエット』は、差別主義者の視点で描かれた没入型ホラー。全編ワンショットという手法で、心が痛むのに、目が離せず引き込まれてしまう作品に仕上がっていました。

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 主人公は、美しい幼稚園の先生エミリー。彼女は差別主義者で、学校で働くラテン系の清掃員に対し、子どもを使って注意する......という、とても静かなのに憎悪が滲み出ているシーンから本作はスタートします。彼女はまた「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義グループを結成し、教会の談話室で6人の女性を集め、多様性が重んじられる風潮に対する不満や怒りをあらわにしていきます。これを聞いた教会の牧師は、即エミリーに立ち去るように命じ、一行はエミリーの家へと向かうことに。しかし、途中で立ち寄った食料品店でアジア系の姉妹と激しい口論が勃発。エミリーたちは"嫌がらせ"をするために、姉妹の家に侵入しパスポートを奪い取ることにします。笑いながら姉妹の家を漁るエミリーたちは、次第にとんでもなく取り返しのつかないことを犯してしまい......。

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 最初は"単なる嫌がらせ"という、ジョークまじりで姉妹の家をあらしていたエミリーたち。そんな彼女たちの発想に開いた口が塞がりません。メンバーの中には、さすがにやりすぎでは......という表情をみせる者もいましたが、衝撃的な展開になるまで誰も止めようとはしないのです。どうしてこんな作品が話題になってしまうのだろう......と疑問を持つほどの問題作ではありますが、こういった作品があるからこそ、差別というものは恐ろしいということを再確認できるのだと思います。人種差別による暴力の現実から目をそらしてしまっていたのではないか、これは本当に映画の中だけのことなのだろうか......今一度、「差別」について深く考えさせられた一本でした。

(文/トキエス)

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『ソフト/クワイエット』
5月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開

監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ
出演:ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・リー、ジョン・ビーバース
配給:アルバトロス・フィルム/G

原題:SOFT & QUIET
2022年/アメリカ/92分
公式サイト:https://soft-quiet.com
予告編:https://youtu.be/e8BERnoXn5w
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