もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭】第21回『ザ・パワー 肉体を喰いつくす古代の呪い』

『ザ・パワー 肉体を喰いつくす古代の呪い』(VHS廃盤/筆者私物)

『ザ・パワー 肉体を喰いつくす古代の呪い』
1984年・アメリカ・84分
監督・脚本/ジェフリー・オブロウ、スティーヴン・カーペンター
出演/スーザン・ストーケイ、ウォーレン・リンカーンほか
原題『THE POWER』
日本未公開

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「パワー!」。吉本興業を退所してまでも筋肉を追求するためアメリカ留学し、40歳半ばで再ブレイクしたなかやまきんに君。今回はそんなボディビル芸人とは無関係に、これを観た人に会ったことがないドマイナーなホラー映画を紹介します。

 作品のメインスタッフであるジェフリー・オブロウ、スティーヴン・カーペンター、ステイシー・ジャッキーノはUCLAの映画専攻で同期でした。3人は卒業と同時にジェフ・オブロウ・プロダクション(以後JOプロ)を設立。1982年、在学中に製作した『PRANKS(悪戯、悪ふざけの意)』をビデオ発売して商業デビューを果たし(翌年『THE DORM THAT DIPPIED BLOOD(血の滴る寮)』と改題)、第2弾『THE POWER』が限定劇場公開、日本でもビデオ発売されたのでした。


 大学でメキシコに栄えたアステカ文明の講義が行われています。教授は「アステカ人は星々を崇拝する。かつて4つの天体が悪魔として地上に落ち、それらは火・水・風という自然の破壊力を具象し、4つ目が人の心の悪を支配するデスタカティルだ」と、デスタカティルの偶像を見せます。ちなみに、このデスタカティルは作品上のオリジナル設定です。するとデスタカティル像がラーメン屋のテーブルにある調味料の小瓶みたいなサイズなので、お調子者の学生が「塩入れだ」と茶化して笑いをとります。これにムッとなった教授がその学生に念を送ると、彼は鼻血を垂らして退室します。教授が講義を終えると、顔見知りの中年男ロットが現れ「パワーが君を乗っ取ったな。危険だ」と警告します。これに教授は「今やコントロールできる」と、先ほど学生を痛めつけた不思議な力でロットを苦しめ教室から追い出します。だが教授は突然叫び声を上げて苦しみ出し空中へ浮び、壁に掛かる先端の尖った旗飾りのバーに背中から「グサッ」と串刺しになり腹まで貫通! ロットは絶叫を聞いて教室に戻ってきますが、像は何処へと消えていました。

 どうやら像を持つ者はサイキック・パワーを得るようですが、命の保証はありません。ロットは像の行方に心当たりがあるようで、教授の入手先であるメキシコへ飛びます。案の定、元の持ち主の家に像は戻っていて、ロットは大金を積んで買い取ろうとしますが「売り物ではない」と拒否されます。ロットは持ち主とその子供までも撃ち殺し像を強奪しますが、急に苦しみ始め体中から血を流して倒れます。

 それから数日後、深夜に男女3人の高校生が、墓地の倉庫でウィジャボード(西洋のコックリさん)をしています。彼らは各自魔除けの御守を持参していますが、トミーがメキシコ旅行土産だというソレは何とデスタカティル像でした。結局、度胸満点な女子ジュリーに対し男子2人がビビッたため中止となり解散します。ところが「何か騒がしいな」と守衛が気付き、倉庫に様子を見に行きます。すでに高校生らは帰った後でしたが、何かの力が守衛を仰向けにひっくり返します。すると守衛の真上でユラユラ揺れていた大きな墓石のロープが「ブチッ」と切れ、守衛の顔面に「グシャッ!」。翌日3人は新聞で墓場の守衛変死事件を知り、ジュリーがゴシップ紙「アイウィットネス(目撃者)」に勤める知人の編集員ジェリーに連絡します。ジュリーとジェリー......ややこしいので違う役名にして欲しかったです(以降、筆者はキーボードを何度も打ち間違えます)。

 ジェリーは3人組を社に連れて行き、「昨晩この子ら、墓場にいたんだって」と恋人の同僚サンディに会わせます。だが現実主義者のサンディは「思春期特有の妄言」と相手にしません。そこでジェリーは「これが関係しているかも」とトミーの像を預かり、別の女性編集員と調査を始めます。その夜、自宅にいたジェリーに異変が起こり、顔が醜悪に変貌していきます。おかしくなったジェリーは、訪ねてきた調査助手の女性編集員の手を掴んでキッチンの排水口にブチ込みます。「ガリガリガリ!」とジュースミキサーみたいな音がして手首から先はなくなってしまいました。アメリカ映画でよく見るディスポーザーという排水口の生ゴミ粉砕機です。ついにジェリーも「パワー!」と、デスタカティル像の虜にされてしまったのです。

 そしてクライマックスはサンディの実家で迎えます。ジェリーはサンディの父親を殺し、テーブルの上にロウソクを並べ、ナイフで切った指先の血を像に付けて謎の儀式を始めます。そこへ高校生3人組が到着し、「俺はパワーを得た」とほざいているジェリーから像を奪い取ったジュリーはサンディと一緒に逃げます。「像を返せ!」と追われるジュリーとサンディが各々レンガとブロックで、床に置いた像をガシガシ叩きます。するとジェリーの顔に血管が浮き出て、顔も体もブクブクと歪んでいき、ヒビ割れた箇所から血が流れ出して死んでしまいました。

 3年後、大学の図書館に勤めているジュリーを「サンディの本で君を知って」と、ジェリーのように醜く歪んだ顔の男が訪ねます。サンディは事件の手記を出版していたのでした。よく見ると、冒頭で死んだと思っていたロットです。ジュリーは「話したくありません」と拒否し、駐車場に停めた車の中で顔を伏せて泣き始めます。ロットは「すまない、思い出させて。ぶしつけだった」と真摯に謝りますが、突如「ウガー!」と顔を上げたジュリーの顔はまるで悪魔! ジュリーはロットの頭を思いっきり車の屋根に叩きつけ一発で即死させます。ジュリーの胸にぶら下がるペンダントは、デスタカティル像でした。

 つ、つまんねー(笑)。この作品に物足りなさを感じた配給会社は、特殊撮影とアクションシーンの追加撮影をJOプロに要求します。そこらへんはUCLA時代の仲間で、その後プロの特殊メイキャップ・アーチストとして活躍するマシュー・マングルが引き受けてくれました。しかしそう考えると、改善する前の映像って、どんなにつまらなかったのでしょうか......「ヤー!」(無理やり締めます)。

(文/シーサーペン太)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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