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ヘイトクライムの狂気をえぐりだす"衝撃の一本"。『ソフト/クワイエット』ベス・デ・アラウージョ監督インタビュー

『ソフト/クワイエット』ベス・デ・アラウージョ監督

『ゲット・アウト』などのブラムハウスが放つ驚愕の全編ワンショット・リアルタイムスリラー『ソフト/クワイエット』が5月19日(金)より全国公開となります。公開に先駆け、監督のベス・デ・アラウージョさんにインタビューを行いました。なぜ女性の目線で人種差別を描いたのか? アラウージョ監督が日本に伝えたいメッセージとは......。

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----本作は人種差別主義者の目線で描かれていますが、主人公とそのグループを男性ではなく女性目線にした意味とはなんでしょうか。

まず、私にとっては少なくとも、女性が主人公のこのような物語を見たことがありませんでした。執筆のきっかけになったのは、エイミー・クーパーの動画でした。公園でバードウォッチングをただ楽しんでいただけの黒人男性に「脅された」と嘘をつき警察に通報した女性で、動画がすぐにバズったんです。そのときにエメット・ティル事件(1950年代に黒人の少年が白人女性に口笛を吹いたことで殺された事件)も思い出し、白人の女性が自分の力を使うことによって、誰かが亡くなってもおかしくない状況だったのではと思いました。そして、そのエイミーという女性は、街ですれ違うような人だったのです。それが自分の中でザワザワして、エイミーと、人生の中で出会った何人かのこういった思想を持つ女性たちをベースに、この物語を書き始めました。

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――脚本を書いたのは、エイミー・クーパーのビデオが出回った翌日だったとのことですが、脚本を書くにあたり、リサーチしたことや、脚本を書くことによって得られた新しい発見などはありましたか?

いい質問ですね。クー・クラックス・クランの女性たちについて、彼女たちがどんな風にそこに参加したり、いろんなことを準備したりするのかを調べていた時に、会報を作っていることを知りました。それを全国に向けて出している。恐ろしいなと思いました。内容は完全に白人主義のものだったのです。


――エミリー役ステファニー・エステスさん、レスリー役オリヴィア・ルッカルディさん、お二人の過激な演技にとても恐怖を感じましたが、ディレクションする上で彼女たちに大切にしてもらったことなどはありますか。

まず、アジア系姉妹を演じたメリッサ・パウロとシシー・リーの感情は気遣うようにしていました。リハーサル中、これだけの題材だからとてもツライだろうというのはみんなが思っていたところでした。ところが、メリッサとシシーは、ステファニーとオリヴィアを含め全員に「全力でやってないんじゃないか」「私たちもプロだし、このストーリーを物語るためにここにいるから、本気でやっていい」と言ってくれたんです。それで、全体の暴行シーンのトーンというのは決まっていきました。監督としては、とにかくみんながオープンに、誠実に、そして正直に自分の感情を表現できるような場を作ることを心がけました。キャラクターを自分のものにしてくださいとお願いしていたので、言葉や動きで違うと思ったところがあれば、発言してもらうなどして、一緒に変えたりしていきました。特にリハーサル中は、彼らから素晴らしいアイディアをもらうことができました。

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――エミリーの夫クレイグは、"言いなりになる夫"という印象でした。監督にとっては、彼も差別主義者と言えるのでしょうか。彼をそういった性格に描いたことにより、どのようなメッセージを伝えたかったのでしょうか。

クレイグは、人種よりも、人の仕事に対する姿勢みたいなところで、人の価値を図るキャラクターだと思っています。結婚している相手が、そういう思想を持つ女性で、自分が小さい存在に思えてしまう気持ちを持っていると思います。エミリーを定義づけているものは、彼女が思う伝統的な家族の形。その中にあるジェンダーの役割というのは、男性が稼ぎ、女性が家で子育てをするというものです。しかし、彼はそのようなタイプではないので、その役割を彼は果たすことができないのです。それでも彼はなんとか結婚生活をうまくやっていきたいという思いがある。マスキュリニティ(男らしさ)というのは、男性だけでなく女性も持つことができるということを見せたかったのです。

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――最初から最後までワンテイクで撮影されましたが、今回が初の試みだったのでしょうか。ワンテイク撮影で監督にとってチャレンジングだったことはありましたか。

短編の中で1本だけワンテイクで撮っているものがあります。今作にも出演しているメリッサが主役で、11分の短い作品でしたが......。ただ、この撮影の手法にビビるようなことはありませんでした。というのも、私たちが世界を見ている時って、いきなり目の前で起きていることがカットされて新しい場所に繋げられるわけではないからです。また、ワンテイクは、カメラマンのグレタさんと一緒に練習していたことでもありました。重いカメラを使っていた時にグレタさんが、「ワンテイクをやるのなら軽量でコンパクトなカメラを一から作るから」と言ってくれていたのです。脚本を書き終えた時に連絡して、撮影することになりました。撮影の中で一番大変だったのは、水辺のシーン。夜間でよく見えないし、安全性などを考えて撮影する中で、グレタさんが後ろ向きに水に入り、カメラを一旦他の人に預けて、カメラをまた手渡してもらうという動きをしなければならなくて、そこが一番大変でした。

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――アジア系の姉妹が標的となる映画ですが、この映画がアジアである日本で公開になるにあたり、どのような思いですか。どのようなメッセージを受け取って欲しいですか。

この映画を制作している意図として、「ヘイトクライムを目撃した時にどんな気持ちになるのか」という強い衝撃みたいなものを感じるようにしたいと思いました。それを思い出せることによって、あるいは目撃しているような気持ちになることによって、実際にヘイトクライムを目撃した時に何か行動を起こすことができるかもしれません。正直、日本でのヘイトクライムがどんな状況なのか、私にはわかりませんが、少なくともアメリカではちょうどトランプ政権だった時期にアジア系アメリカ人に対するヘイトクライムが増えてピークを迎えた段階でした。憎悪というのは言葉に表れ、そして憎悪のある言葉は物理的な暴力につながると思っています。ですから「それをどこで止めたいのか」ということだと思いますし、そういうふうに感じて注目してもらえたら嬉しいです。自分自身も人生の中で、「立ち上がればよかった」「言えばよかった」と後悔していることがいっぱいあります。なので、みなさんと同じくらい自分にも語りかける作品になっています。みなさんの中にも、声を上げるのが恥ずかしい、目立ちたくないと思う人はたくさんいることでしょう。でも声を上げたいと感じている人もいると思います。そういう人に届けばいいなと思っています。

(文/トキエス)

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『ソフト/クワイエット』
5月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開

監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ
出演:ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・リー、ジョン・ビーバース
配給:アルバトロス・フィルム/G

原題:SOFT & QUIET
2022年/アメリカ/92分
公式サイト:https://soft-quiet.com
予告編:https://youtu.be/e8BERnoXn5w
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