「論破」はNG! "スピリチュアル"に傾いた人と向き合うためのヒント

- 『ママ友は「自然」の人 (SUKUPARA SELECTION)』
- 山田ノジル,すじえ
- 竹書房

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「引き寄せの法則で、『最幸のお志事』と出会えた」
「経血コントロールをすれば、子宮がキレイになる」
子育て中の人であれば、InstagramやnoteなどのSNSで、こうした言葉を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。科学的な裏付けがはっきりしない "スピリチュアルな言葉"の受け取り方は人それぞれで、共感する人もいれば、少し距離を置きたいと感じる人もいるかと思います。
自分自身が冷静に取捨選択できていれば問題はありません。しかし、もし身近な友人や家族がスピリチュアルな考え方に強く影響を受けているように見えたとき、私たちはどのように関わるのが望ましいのでしょうか。
そんな問いに、物語というかたちでヒントを与えてくれるのが、本書『ママ友は「自然」の人』です。
本書に登場する歩美は、ママ友がほしいという思いから、「宇宙育児」を標榜する育児サークルに足を運びます。歩美の夫は育児に積極的とは言えず、義両親との同居によるストレスも抱えていました。やがて歩美は、自分の居場所を育児サークルに求めるようになります。
そんな歩美が、いわゆる「スピリチュアルの沼」から抜け出す契機となったのが、ふるくからの友人・カナの存在でした。カナは過去に、非科学的な情報に強く傾倒した知人との関わりで苦い経験があり、その教訓から「話を否定しすぎて心を閉ざされないように気をつけよう」(本書より)と、とっさに適切な対応ができたのです。
歩美のように自己肯定感が低い状態では、自分を理解し、認めてくれる存在は大きな拠り所になります。その結果、家族よりも自分を理解して寄り添ってくれる育児サークルに、いとも容易く没入し、依存してしまいました。
ただ、歩美の場合、カナのように継続的に関わってくれる第三者がいたのが不幸中の幸いでした。しかし人間関係が希薄な人は、ひとたび「スピ沼」へ陥ると、そこから抜け出すのは容易ではありません。
本書が繰り返し伝えているのは、「正しさ」を突きつけることが必ずしも最善ではない、という点です。スピリチュアルな考え方に惹かれている本人にとっては、「『人の役に立ちたい』という善意の場合も多いので善し悪しの区別はつきにくい」(本書より)状態にあります。その状態で強く否定されると、自分自身を否定されたように感じ、かえって距離が広がってしまうこともあるのです。
言葉を尽くしても説得が通じない場合には、時期が来るまでじっと待ち、本人との信頼関係の維持に努めることが有効でしょう。
とはいえ、ここまで読んで「自己責任なのだから放っておけばいい」と感じる人もいるかもしれません。
そもそも本書に登場する「自然派育児」の何が問題なのでしょうか。
それは、医学的根拠がない情報を実践した結果、標準医療を遠ざけてしまうことです。物語のなかで、歩美が自己判断でアトピー薬の塗布を中断してしまう描写があります。これでは、一番弱い立場である子どもから治療のチャンスを奪ってしまいかねません。
アトピーのような慢性疾患は寛解までに時間がかかることが多く、生真面目な親ほど一人で責任を抱え込みがちです。また、医療機関がそういった親の苦悩を十分にキャッチできず、親子への情報提供やサポート体制が不十分なことも、要因のひとつと言えるでしょう。
本書ではほかにも、個性的で「育てにくい子ども」の育児に手を焼く真理子のエピソードが登場します。「はじめは子どものためだったが自己実現が優先になる『搾取側にシフトチェンジ』タイプ」(本書より)として、最初は"搾取される側"だった立場から、やがて自ら不安商法の担い手となり、今度は"搾取する側"に回るという構造が描かれます。
本書で描かれる一連のストーリーは、育児サークルに限らず、学校のPTAや受験セミナー、校友会、同好会など、どんな集団でも起こり得る事象です。運営がどんなに注意喚起をおこなっても、集団組織である以上、こうした情報が入り込むリスクは避けられません。
本書を読み終えてもなお、「自分だけは絶対に大丈夫」と言い切れるでしょうか。
[文・山口幸映]
