もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2022年9月号

映画『マイ・ブロークン・マリコ』より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊妄想かわら版』十三回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
9月公開の映画からは、この四作品を選びました。

***

『さかなのこ』(9月1日公開)
公式サイト:http://sakananoko.jp/
予告編:https://youtu.be/l2pAqfm4ZHc

★main.jpg 「さかなクンのすっギョい人生」を沖田修一監督が映画化した『さかなのこ』。ミー坊(のん)は「いつかおさかな博士になりたい」という夢を持ったまま成長し高校へと進む。同級生たちはヤンキーばかりのようですが、彼らともうまくやっているようです。
 他の子供との違いを心配する父(三宅弘城)とは違い、三者面談で母(井川遥)は担任に「この子はお魚が好きで、お魚の絵を描いて、それでいいんです」と言っているのも予告編で見ることができます。魚に関するいろんな業種にチャレンジするミー坊ですが、どれも求めているものではないようです。
 同級生の元ヤンキー(柳楽優弥)から声をかけられ、メディアに出ることで「ミー坊」から「さかなクン」へとなっていくようです。母も「広い海に出てごらんなさい」と伝えて背中を押すシーンも予告編で見ることができます。
 好きなことをずっと好きでいることで、多くの人から愛され尊敬されるようになったさかなクン。子供たちにぜひ観てもらいたいです。あっ、妄想ができてなかったです。本物のさかなクンも出演しているようなので、ミー坊とぶつかって、「俺たち」「私たち」「入れ替わってる?」というパロディをやってほしいです。やってくれたらうれしいでギョざいます!

sub1.jpg

『さかなのこ』
9月1日(木)よりTOHOシネマズ 日比谷 ほかにて全国ロードショー
制作・配給:東京テアトル
©2022「さかなのこ」製作委員会

『百花』(9月9日公開)
公式サイト:https://hyakka-movie.toho.co.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=7kacpw2RF-g

WEB用_百花_サブ01(PC壁紙画像・携帯待受画像には使用できません).jpg 映画プロデューサー・川村元気の四作目となる小説を自身が監督・脚本を手がけた映画『百花』。認知症となり、記憶を失っていく母の百合子(原田美枝子)、そんな母に寄り添う息子の泉(菅田将暉)。幼少期の泉が「お母さん帰ってこない」と言っている回想シーンもあり、二人には空白の一年があったようです。
 泉には妊娠している妻の香織(長澤まさみ)がおり、そのことも母との関係性や思い出を取り戻したいという気持ちにさせているのかもしれません。また、若き母がピアノを男性(永瀬正敏)に教えている場面もあり、彼がなにかを知っていそうな様子です。
 ここからは妄想です。母が香織に「泉に許してもらえないでしょうね。とても苦しめたと思うの」と語る場面も予告編にあります。若き母が瓦礫の廃墟にいるシーンもあり、もしかするとあの男性と共に神戸に駆け落ちし、1995年の大地震に遭遇してから息子の元に戻ってきたのかもしれません。
 また、「半分の花火、見たい」と泉に話すシーンもあり、泉という水が湧き出るものと花火という火が舞い踊るものがどこか母の中で繋がっているのかもしれません。半分の花火を息子の泉と見ることで、彼女の失われた記憶が一度だけ「百」に戻って、再び花火のように消えてしまうラストかもしれません。

WEB用_百花_メインカット(PC壁紙画像・携帯待受画像には使用できません).jpg

『百花』
9月9日(金)全国東宝系にてロードショー
配給:東宝
© 2022「百花」製作委員会

『LAMB/ラム』(9月23日公開)
公式サイト:https://klockworx-v.com/lamb/
予告編:https://youtu.be/HrvTbwhpoqk

LAMB_メイン場面写真.jpg カンヌ国際映画祭で問題作として話題になったヴァルディミール・ヨハンソン監督『LAMB/ラム』。娘のアダを亡くした羊飼いの夫婦がある羊の出産に立ち会うと、生まれてきたのは「禁断(タブー)」だった。彼らは顔は羊だがその下は人らしき身体をした存在に娘と同じアダと名付けて、人と同じようにして育て始める。しかし、ほかの羊たちがアダに対して、興味や敵意を持って近づくとマリアは「来るな!」と怒鳴り、ライフルを発砲するシーンなども予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。妻の名前がマリアであり、キリスト教における「善き羊飼い」とはイエス・キリストのことを言います。半妖半人のような、羊と人間の間の子のような存在のアダですが、予告編で「禁断(タブー)」と出てくることを考えると、夫のイングヴァルが羊を獣姦して生まれてしまった子供なのかもしれません。そうであれば、羊飼いの夫婦という設定も納得できます。
 物語のメインとなるのは妻のマリアであり、アダへの母性が溢れ出ており、子供を守ろうとする姿が予告編でも見れます。子供を失った母の強い思いが自然界のルールから逸脱した異様な者を生み出してしまった。そう考えると、アダはイエスというよりはサタン的な崩壊を招く存在なのではないでしょうか?

ada1.jpg

『LAMB/ラム』
9月23日(金)公開
配給:クロックワークス
© 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

『マイ・ブロークン・マリコ』(9月30日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/mariko/
予告編:https://youtu.be/KsCIi8-xwzo

メイン.jpg マンガ賞を総なめにした平庫ワカ作『マイ・ブロークン・マリコ』を向井康介脚本×タナダユキ監督で映画化。主人公のシイノトモヨ(永野芽郁)は亡くなったダチのイカガワマリコ(奈緒)の実家で彼女の毒親に包丁を突きつけ、遺骨の入った骨箱を持ち、「マリコの遺骨は私が連れていく」と言い放ってそのアパートのベランダから飛び降ります。
「感覚ぶっ壊れてんじゃねえの!」と怒るシイノ、「そうだよ」と返すどこか壊れてしまっているマリコ、二人が学生時代だった頃のやりとりも予告編では見ることができます。かつてマリコが行きたがっていた海のことを思い出したシイノは遺骨と共にそこに向かうことになる。
 ここからは妄想です。と言っても実はマンガが話題になった時に読んでいるので話の筋は知っています。葬式というのは故人を偲ぶということもありますが、残された側のためにも必要な儀式です。
 マリコを救えなかったという想いがあるからこそ、シイノは遺骨を海に連れていくことで亡きダチの願いを叶え、無意識なのか自分にとっての別れの儀式にしようと思っているのでしょう。「死んでちゃわかんないだろ!」というシイノの叫びが予告編にあるように、この映画を観ると大切な人に今すぐ会いに行きたくなるのではないでしょうか?

サブ①.jpg

『マイ・ブロークン・マリコ』
9月30日(金)公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA
©2022映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」連載中です。

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOK STANDプレミアム