もやもやレビュー

多様性を受け入れる時代へと変化している今だからこそ。『破戒』

『破戒』 2022年7⽉8⽇(⾦)より丸の内TOEIほか全国公開

1948年・木下恵介監督、1962年・市川崑監督と名だたる巨匠が映画化してきた島崎藤村の名作「破戒」が60年ぶりにスクリーンへ帰ってくる。

瀬川丑松(間宮祥太朗)は、自分が被差別部落出身ということを隠して、地元を離れ、ある小学校の教員として奉職する。彼は、その出自を隠し通すよう、亡くなった父から強い戒めを受けていた。生徒には慕われながらも、出自を隠していることに悩む丑松。一方で、下宿先の士族出身の女性・志保(石井杏奈)との恋に心を焦がしていた。

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部落差別と聞いて今の若者はどれくらい知識があるのだろうか?
私は初めてその存在を知ったのは、小学生の頃に道徳の授業で、どうして部落がうまれたかや部落差別された人はどんなふうに扱われたのかを聞いてからだった。
私が住んでいた地域には、かつては部落と呼ばれる人がいた場所が一部含まれていた。子どもながら見えない空気の中にそのことをうっすらと感じた。だがその場所も、今では人気の街と言われ新しい人が続々と住み始め街も変わってきている。そういった差別があったとは知らない人のほうが多いだろう。だけど今もなお、その地区だけ家賃が周りの相場より不自然に安いということが現在も起こっていることを、大人になり知った。誰もなぜだか語らない。だけど実際にもう誰も口にしない空気の中に残っているなにかを感じた瞬間でもあった。

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この作品の日本はロシアとの戦争中という時代背景を抱えており、今観る意味が一つ増えたように感じた。そして、多様性を受け入れる時代へと変化している今という時代。過去に実際あったことを知れる学びのある名作が、現代の俳優によって再びつくりあげられた意味のある一作だった。

(文/杉本結)

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『破戒』
2022年7⽉8⽇(⾦)より丸の内TOEIほか全国公開

監督:前⽥和男
原作:島崎藤村『破戒』
出演:間宮祥太朗、⽯井杏奈、矢本悠馬、高橋和也、⼩林綾⼦、七瀬公、ウーイェイよしたか(スマイル)、⼤東駿介、⽵中直⼈、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、眞島秀和
配給:東映ビデオ

2022/日本映画/119分
公式サイト:https://hakai-movie.com
©全国⽔平社創⽴ 100 周年記念映画製作委員会

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