もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭】第10回 『悪魔のゴミゴミ・モンスター』

悪魔のゴミゴミモンスター [DVD]
『悪魔のゴミゴミモンスター [DVD]』
ダグラス・A・ハグデール,スコット・A・ヘンダーソン,スコット・パーカー,ダニエル・G・バークヘッド,ロバート・L・バーリル
有限会社フォワード
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『悪魔のゴミゴミ・モンスター』
1978年・アメリカ・77分
監督/ロバート・L・バーリル
脚本/ロバート・L・バーリル、デヴィッド・E・ボストン
出演/ダグラス・A・ハグデール、スコット・A・ヘンダーソン、スコット・パーカーほか
原題『PILPITAS MONSTER』

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 かつて独特な映像美で大ヒットしたカルト・ホラー・コメディー『悪魔の毒々モンスター』(84年)が、何とレジェンダリー・ピクチャーズにより『THE TOXIC AVENGER』(邦題未定)としてリブートされます。製作したトロマ・エンターテイメントのツートップ、ロイド・カウフマンとマイケル・ハーツもプロデューサーとして名を連ね、『フットルース』(84年)のケヴィン・ベーコンが悪役というのも注目です。強烈なバイオレンスとゴア描写、不適切な言葉遣いや性的要素からR指定となりましたが、過激じゃないと意味がないのでOKです。

 当時は『悪魔の毒々ハイスクール』(86年)、『悪魔の毒々プラトーン』(88年)、『呪われた毒々魚』(78年)なんて便乗タイトルがレンタルビデオ店に並びました。そんな中、書店で売られていた大陸書房の1980円ビデオ『悪魔のゴミゴミ・モンスター』は異彩を放っていました。実はこの作品、日本での商品化が奇跡のような自主映画だったのです。

 舞台となるカリフォルニア州ミルピタスは、1954年の発足時は人口825人の小さな農村でしたが、今やシリコンバレーの一角としてコンピューター産業が栄える人口6万の主要都市。1996年には茨城県つくば市と姉妹都市が提携されています。ミルピタスが発展途上の1970年代、とある高校の美術教師が、授業で生徒が描いた架空の怪獣映画のポスターを見て、短編映画を撮ろうと提案します。するとトントン拍子に事が運び、町の予算で長編映画化が決定。脚本も生徒が書き、写真教師のロバート・L・バーリルが監督を務め、役者は住人が手弁当で参加しました。

 冒頭でミルピタスの歴史が紹介され、「1970年代には人間自身の出すゴミで土地は埋まった」とテーマ性はあるようです。大量のゴミが投棄された郊外。水質汚染の沼から突然、体長15メートルの巨大なハエ怪獣が出現します。怪獣のスーツは、毛むくじゃらの着グルミにビニールで作った2枚の翼を付け、両目はハエなので複眼。頭にはガスマスクを被っているという珍妙な姿。餌にするのでしょうか、怪獣は夜な夜な町人が外に出しておいたゴミ箱を盗んでは自分の巣に持ち帰り始めます。

 パタパタと羽ばたき空を飛ぶ怪獣は、超下手っぴなストップモーション・アニメで表現され、鳴き声は怪獣マニアなら一発で解る『空の大怪獣ラドン』(56年)。なんでも怪獣の鳴き声は使用フリー音源だそうで、同じ空を飛ぶラドンにしたのでしょうか。しかも、どういうコネがあったのか米国上映版『ラドン』で吹き替えをした声優が、本作のナレーションを担当しているというのもナード(オタク)には嬉しい要素でしょう。

 ただし怪獣は建物を破壊せずゴミ箱をせっせと集めるだけで、あくまでゴミ漁りが目的のようです。しかし町中のゴミ箱が消えたため、役場には苦情が殺到します。そこで専門不明の博士が、オドローラなる怪獣発見器を開発します。公害怪獣のODOR(臭気、悪臭)を探知する機械で、メーターが並び、クルクル回るレーダーアンテナ、無線などが装備されています。

 さて、怪獣は体育館で開催されている高校のダンスパーティー会場に飛来し、窓から中を覗いて物色した美少女を見つけ、ドアから手(実物大)を入れて掴みます。それを見たブサイクちゃんが一層顔を歪ませ、オーバーアクションで何度も悲鳴を上げます。普通はヒロインが悲鳴を上げるのですが、他にも小奇麗なJK役が大勢いるのに、なぜブサイクちゃんが一人で叫ぶのでしょうか? 監督のガールフレンドか血縁? ちなみに掴まれた美少女は市長の令嬢だそうです。

 怪獣は美少女を掴んだまま、広大なゴミ屋敷と化した自分の巣へ飛んで帰ります。そこには高圧電流の流れる鉄塔が立っていて、退治に来た消防隊員(地元の本物)が「高熱でフライにしてやる」って確かにハエはフライですが。ここで町議会が調達したヘリが飛んできて「ホームレス作戦」を展開します。町の有名人であるホームレスのオジサンを怪獣の鼻面に吊り下げ、彼の臭気で鉄塔まで誘導するのです(今なら人権問題)。ハエ怪獣! ホームレス! ゴミの山! 果たしてミルピタスの町に平和は訪れるのでしょうか⁉

 地元では高校生スタッフが怪獣スーツを着て小学校の教室を回って宣伝し、劇場に集まった住民たちはスクリーンに映る自分の顔を見てお祭り騒ぎだったといいます。なお120分を超えるノーカット版(出演した市民を全員見せるための地元版かな)が、今でもたまにミルピタスで上映されるそうです。

 脚本を書いたボストン君は、その後プロの脚本家となりショービズ界の一線で活躍。特殊効果のベン・バートは、ロジャー・コーマンの『デス・レース2000』(75年)でサウンド・デザイナー(効果音担当)に転身し、ルーカス・フィルムに在籍してから『スターウォーズⅣ』(77年)、『レイダース 失われたアーク(聖櫃)』(81年)、『E.T. 』(82年)、『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(89年)で4度のアカデミー賞に輝くなど大出世しています。

 当作品のビデオを発売した大陸書房は、月刊『ムー』(学研)が発刊する前の1970年代に、UFO、UMA、超能力、超古代文明などの白いカバーで統一されたオカルト本を多く出版して人気を博していましたが、1986年に立ち上げたこの廉価版ビデオ「ピラミッドビデオ」が経営難にトドメを刺し、大量の返品を抱え1992年に倒産したのでした。映画の他にもアニメ、アダルト、アイドル、ハウトゥーものなど豊かなラインナップでしたが、すべてゴミゴミ・ビデオとなったわけです。そして2014年に作品は、無名のSFやホラーをサルベージするフォワード社から、さらにお安くなった1500円でDVD化されました(祝!)。興味を持った方は、そんな背景を踏まえた上、出来には目をつむり優しい眼差しで鑑賞してください。

(文/シーサーペン太)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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