もやもやレビュー

雪の中でも心温まる『ユンヒへ』

『ユンヒへ』 1月7日(金)より公開中

韓国から届いた静かなラブストーリー。韓国のアカデミー賞と言われる、青龍映画賞で最優秀監督賞と脚本賞の2冠に輝いた作品。韓国で暮らすシングルマザーのユンヒが、長年連絡を絶っていた初恋の女性から一通の手紙を受け取ったことから物語は始まる。

手紙を盗み見てしてまったユンヒの高校生の娘セボムは、自分の知らない母の姿をそこに見つけ、差出人である日本人女性ジュンに興味を持つ。ジュンの住む北海道・小樽に行かないかと母を誘い、止まっていた時間が進みだす。

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監督自ら、岩井俊二監督の『Love Letter』にインスパイアされてロケ地は小樽を選んだというだけあって、手紙というアイテムがとても魅力的に扱われている作品だった。
20年もの間、書いては封印する作業を繰り返された手紙。女性同士の恋愛に対する目が厳しかった時代にあったその恋が、直接的に本作の中では描かれることはない。描かれているのは2人が出逢ったシーンだけなのだが、その間にあった2人の時間まで見たような錯覚に陥るほど、想いが溢れ出すシーンだった。言葉もなく目があった、それだけのことが尊くて大切な2人の時間。
その場をそっと離れる娘も素敵で、小樽の寒い雪の中のシーンなのに心はぽっと灯りがともったように温かい気持ちになった。
気持ちを伝えるという行為について、言ってくれなきゃわからない!なんて台詞を良く聞くけれど、究極の形として話さなくても伝わる。そうやって心を通わせる時代を生きた2人のやりとりが垣間見られた。

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この作品は、男性監督が中年女性の気持ちを考えて撮ったというところも高く評価されたポイントなんだと思う。派手なシーンはないけれど深々と積もる雪の中でここまで心を動かされる作品もなかなかであうことは出来ない。
1年の始まりから良い作品に出会えた。

(文/杉本結)

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『ユンヒへ』
1月7日(金)より公開中

監督・脚本:イム・デヒョン
出演:キム・ヒエ、中村優子、キム・ソへ、ソン・ユビン、木野花、瀧内公美、薬丸翔、ユ・ジェミョン(特別出演)
配給・宣伝:トランスフォーマー

原題:윤희에게
2019 年/韓国/105分
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/dearyunhee/
©2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

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