もやもやレビュー

10代の恋愛で経験したほろ苦い記憶が思い出される『Summer of 85』

『Summer of 85』 8月20日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開中

人生の中で、人を愛するという感情はもしかしてこのことなんじゃないか?という瞬間がやってくる思春期。その時に、その感情から派生するかのように相手を思うあまり生まれる束縛や嫉妬の感情。今まで感じたことがなかった自分自身から湧き出てくる新しい感情に戸惑いながらも、2人が同じ気持ちだと信じて過ごす日々の幸せ。
そんな1985年の夏の6週間に起きた儚いラブストーリー。

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北フランスの海辺の町でセーリングのためヨットで沖に出た16歳のアレックスは、突然の嵐に見舞われ、18歳のダヴィドに救助される。
アレックスとダヴィドは急速に惹かれ合い、友情を超えやがて恋愛感情で結ばれる。しかし、そんな幸せな日々も長くは続かなかった。
愛すれば愛するほどに湧き上がる"満たされない気持ち"。アレックスはそんな気持ちと葛藤する。そして2人がしたある約束が実行されたあとに残るものは果たしてなんなのか。

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原作は、英作家エイダン・チェンバーズが1982年に発表した青春小説の金字塔「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店)。17歳で本小説と出会い感銘を受けた監督のオゾンは約35年の時を経て映像化した。

オゾンの今までの作品で出てきたエロチックなシーンは本作では封印されている。原作に忠実であり過激な描写は少なく、繊細でどこか間違えた場所をつついたらお皿から溢れ落ちてしまうかき氷のような、難しい感情のバランスを綺麗に盛り付けたような作品。

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初恋の記憶は時間が経てば美化されることもあるだろう。恋は盲目という言葉もあるように、恋をする中で相手のことを自分が求める恋愛像の塊として美化したフィルターをかけて見てしまうこともあるだろう。
それに、相手が気がついた時にどう思うのかという部分にまで話が展開するところが面白い。

恋愛が発展するにつれてお互いの感情の変化がリアルに描き出されている。
どの感情も自分に正直で10代だからこそ!という懐かしい感情が1980年代の音楽やファッションと共に楽しめるのが本作の魅力だ。
時代が変わっても、人間の持つ感情の根底には流行り廃りがないとしんじみと感じる秀作だ。

(文/杉本結)

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『Summer of 85』
8月20日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開中

監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー
配給:フラッグ、クロックワークス

原題:Ete 85/英題:Summer of 85
2020/フランス/100分
公式サイト:https://summer85.jp
© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA-PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

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