『月刊予告編妄想かわら版』2021年9月号
『君は永遠にそいつらより若い』(9月17日公開)より
今回から新しく連載を始めるライターの碇本学です。よろしくおねがいします。
この「予告編妄想かわら版」は8月までは「週刊ポスト」の映画コーナーで連載していたのですが、連載終了に伴い、「BOOKSTAND映画部!」で続きをさせてもらうことになりました。
毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していくというものになります。果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、こんなご時世ですが映画館で観てもらえたらうれしいです。
初回となる9月公開の映画からはこの4作品を選びました。
『その日、カレーライスができるまで』(09月03日公開)
公式サイト:https://sonocurry.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=AGez8iKS4xQ&t=10s
齊藤工が企画・プロデュース、『CUBE』日本版の監督を務めた清水康之が監督・編集・脚本、リリー・フランキーが主演した『その日、カレーライスができるまで』。ラジオの番組を流しながら野菜を切ってカレーを作っている男(リリー・フランキー)。
「今年も妻の誕生日にカレーを作っています。三日後が誕生日です。妻は三日後のカレーが好きで、ただいろいろあって今年は一人で」という彼がガラケーで書いた文章をラジオのアシスタントが読んでいるシーンがあります。彼の孤独を表現するような大雨や、彼の息子であろう幼い少年が映し出された映像も予告編で見ることができます。
ここからは妄想です。男の家族は現在おらず、彼は一人暮らしをしているようです。予告編の中で、幼い少年に対して男が「父ちゃんなんもできんかった」とつぶやいています。
息子はなにかの事件に巻き込まれ死んでしまった。そして、男の妻である母親がその事件を起こした犯人を見つけ出し、復讐を果たしたのではないでしょうか? つまり「今年も」妻の誕生日にカレーを作っているというのは刑務所に彼女が入っているために会えないからでしょう。最後に玄関のドアが開き、妻が帰ってきて男がこぼした涙がカレーに落ちる、そんなラストシーンかもしれません。
© 2021『その日、カレーライスができるまで』製作委員会
『ミッドナイト・トラベラー』(09月11日公開)
公式サイト:https://unitedpeople.jp/midnight/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=iNLSbK6tjw0
アフガニスタンからヨーロッパまで、難民家族が3台のスマホで自らの旅を撮影したセルフドキュメンタリー『ミッドナイト・トラベラー』。映像作家のハッサン・ファジリはタリバンの指導者の映画を撮ったが、放映後に指導者から怒りを買って死刑宣告を受けてしまう。彼は妻と二人の娘と共にヨーロッパに逃げることを決意する。
タリバンの追っ手から逃れるように家族は砂漠や荒野や山や森など危険な地域をスマホの位置情報システムなどを使って、敵の情報などを掴みながら少しずつ目的地に近づいていく。「移民は敵だ」と話している若者がいるように、世界は故郷を棄てるしかなかった難民に優しいものではなかった。
ここからは妄想です。と言いたいところですが、これが今の私達が生きている世界の現実です。近頃タリバンがアフガニスタンを制圧したというニュースが流れたばかりです。ファジリ家族が逃げ出す前の環境とは今後変わっていくかもしれませんが、彼らが撮影した記録がこうやって公になることで世界の人々にアフガニスタンの日常がどんなものだったのかを教えてくれるきっかけになるはずです。
スマホの登場は明らかに世界を変えました。一台あれば、自らが発信元になって世界に言いたいことを届けられます。新しい宗教は人を救うのでしょうか?
©2019 OLD CHILLY PICTURES LLC.
『君は永遠にそいつらより若い』(09月17日公開)
公式サイト:https://www.kimiwaka.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=il3DmQNwSAo
芥川賞作家・津村記久子のデビュー作を吉野竜平監督が映像化した『君は永遠にそいつらより若い』。児童福祉司職に就職が決まった赤髪で長身の大学四年生のホリガイ(佐久間由衣)と一学年下のイノギ(奈緒)が知り合い、次第に仲良くなっていく。
「目逸らしてるお前に、ほんとに人の痛みがわかるのかよって、児童福祉司になる資格があんのかよ」とホリガイが言うと、イノギが「そもそも、なんで児童福祉司になろうと思ったの?」と聞くシーンがあります。また、テレビに未解決事件として幼い少年の失踪事件が映っていたり、マンションの柵に捕まって地面に落下しないように耐えているホリガイの姿も予告編にあります。
ここからは妄想です。マンションのベランダのような場所で鼻血を出しながら部屋の方を見ているホリガイの姿も予告編にあり、テレビに映った少年のように何かが起きている家庭を知り、彼女が助け出そうとしているようにも見えます。他にもタイトルにある言葉をホリガイからイノギに伝えているシーンもあり、彼女もかつてその尊厳を踏みにじられるような体験をした可能性を感じさせます。イノギがなにかで命を落とし、生き残ったホリガイが児童福祉司として懸命に働いて数年後に、イノギに似た少女を救うそんなラストシーンかもしれません。
©「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会
『ディナー・イン・アメリカ』(09月24日公開)
公式サイト:http://hark3.com/dinner/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=lvnuveIJ-tk
保守的な両親の元で育てられているティーンネイジャーのパティとアナーキーなバンドマンとのラブストーリー『ディナー・イン・アメリカ』。パンクロックを聴くことが趣味のパティは友人たちとライブに行きたいと両親に伝えるものの、それを許してもらえない。そんな中、警察から追われるモヒカン男のサイモンと出会い、彼に頼まれて家に匿うことになる。
パティは覆面パンクバンドのファンだったが、サイモンこそがそのリーダーのジョンQだった。パティはサイモンに頼んでライブへ連れて行ってもらうことになる。途中の車内では「私バカなの?」「バカじゃない。お前は最高にパンクだ」というやりとりも予告編で見ることができます。
ここからは妄想です。サイモンがギターを弾き、パティがマイクに向かって歌を歌っているシーンなども予告編にあるので、徐々に彼女は自分が夢に見ていた人生を歩みだそうとするはずです。そのパートナーこそがサイモンであり、彼女を退屈な日常から連れ出すための使者だったのでしょう。
田舎の保守的な両親というのも、パンクロックなどの自由さのどちらもまさしくアメリカ的なものです。パティは一度はサイモンと離れてしまうものの、ライブツアーに出た彼を追いかけて家出をして彼に会いに行く、そんな終わりなのではないでしょうか?
(文/碇本学)
- Profile -
1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」連載中です。園子温監督が手がけられた映画『リアル鬼ごっこ』のノベライズ『リアル鬼ごっこJK』、Amazonプライムドラマ『東京ヴァンパイアホテル』エピソード8&9脚本を執筆しています。