もやもやレビュー

優しさの連鎖に包まれる『宇宙でいちばんあかるい屋根』

今年3月に行われた日本アカデミー賞で最優秀作品賞に輝いた『新聞記者』の藤井道人監督の最新作。

主人公つばめ(清原果那)は幼い頃に母親が家を出て行き、父親と育ての母親と暮らす14歳。そんな微妙なバランスの家族に赤ちゃんが生まれることになった。思春期のつばめは学校でも元彼とのいやな噂で居心地が悪く、放課後に通う書道教室の屋上がひとりになれる秘密の場所だった。だが、ある日見た目が派手な不思議なおばあさんに出会う。通称、星ばあ(桃井かおり)につばめは心を許し悩みを打ち明けるようになってゆく。

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去年話題になった『新聞記者』があまり自分にははまらなかったのでこの作品はどうかな?と一抹の不安のようなものを抱えながらの鑑賞。去年公開された監督の『デイアンドナイト』『新聞記者』どちらもどんよりと暗い作品だったのに対して、今回の作品は少女の抱える負の感情を周りの役者さんが上手く解きほぐしてくれている。ゆっくりと小説を読みすすめていくような気持ちよさがあった。

なかでも劇中で星ばあがつばめに言った「後悔するなら行動してからにしろ!」という台詞が印象に残った。主人公は14歳。初めて出会う感情や悩みにもやもやするまさに思春期まっただなか。後悔がないように過ごしたつばめの夏休みは、一生忘れることのない時間になっただろう。そんな感情が作品の中では書道という形で表現されるところが素敵だった。
誰かに優しくすることで、周りの人が自分に与えてくれている愛情に気がつける。主人公つばめが抱える負の感情を気持ちよくプラスへと転換してくれる作品だった。

(文/杉本結)

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『宇宙でいちばんあかるい屋根』
9月4日(金)より全国ロードショー

脚本・監督:藤井道人
原作:野中ともそ「宇宙でいちばんあかるい屋根」(光文社文庫刊)
出演:清原果耶/伊藤健太郎、水野美紀、山中 崇、醍醐虎汰朗、坂井真紀、吉岡秀隆/桃井かおり
配給: KADOKAWA 

2020/日本映画/115分
公式サイト:https://uchu-ichi.jp
(C) 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会

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