もやもやレビュー

父親の背中を追い続ける。『ハニーボーイ』

『ハニーボーイ』 8月7日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか 全国順次公開

本作は暴言や暴行、事故など多くの話題でお騒がせ俳優として知られるシャイア・ラブーフが自身の体験をベースに半自伝的映画を脚本し、自身も父親役で出演もしている。

天才子役として活躍する子供「ハニーボーイ」の父親は酒浸りの前科者。「ハニーボーイ」はシャイア・ラブーフの子役時代のニックネームである。両親が別れ父親に引き取られるという形で共に生活しているが生計を養っているのは息子。そんな父親との過去のトラウマに大人になって立ち向かう。その先に見えてくる世界は一体どのようなものなのだろうか...。

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本作に登場する「ビッグ・ブラザー制度」。日本人にはなじみのない制度だが、「リスクを負った子供」を対象にボランティアの人間が「兄」「姉」として寄り添うというもののようだ。
子供の「リスク」には「児童虐待」「不登校」「貧困」「家庭トラブル」など様々なものがある。幼い頃に家庭の外に心を許せる相手がいてくれたら...と思う人は、日本にも多くいるだろう。こんな制度が広く整備されたらいいのにと考えさせられた。

本作で子役の「ハニーボーイ」を演じたノア・ジュプ。彼を観るために是非ともこの作品を観て欲しいと言っても過言ではないだろう。ノア・ジュプといえば『ワンダー 君は太陽』で主人公オギーの友人役として出演していた。その他、『クワイエット・プレイス』での彼の演技も素晴らしく『クワイエット・プレイス2』の続編の公開も待ち遠しい。本作では少年ながら喫煙シーンなど幼い姿とのギャップを感じるシーンも多数演出されている。なんといっても父親とのやりとりで感情を爆発させたり、ひとりになった時に見せる寂しい本心を言えない子供の心の機微などが、台詞ではなく表情や仕草で表現されている点が素晴らしい。これからどんな大人になっていくのか見守りたい俳優のリストに、確実に仲間入りすることになるだろう。

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父親と息子の関係は、本作ではどこからどうやって修復すればいいのかわからないほどに複雑なものになってしまっている。どんな父親だとしても息子の中にはいつも父親が存在していることが子供目線から痛いほど伝わってくる。
この脚本を書いて、父親の役を演じることはシャイア・ラブーフにとって辛いことではなかったのか? よく自身と向き合ったなと驚いた。
父親が教えてくれた「成功」とはいったいなんなのかスクリーンで確かめて欲しい。

(文/杉本結)

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『ハニーボーイ』
8月7日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか 全国順次公開

監督:アルマ・ハレル
脚本:シャイア・ラブーフ
出演:ノア・ジュプ、シャイア・ラブーフ、ルーカス・ヘッジズ
配給:ギャガ

原題:HONEY BOY
2019/アメリカ/95分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/honeyboy/
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