もやもやレビュー

カンヌの裏側を切り抜いた映画『クレアのカメラ』

クレアのカメラ(字幕版)
『クレアのカメラ(字幕版)』
キム・ミニ,イザベル・ユペール,チャン・ミヒ,チョン・ジニョン,ホン・サンス,ホン・サンス
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コロナ禍の特異な世の中で、「こうきたか」と唸るようなアイディアを目撃できるのは、稀有な体験である。映像も然り。遠隔で撮影をしたり、家から出られない状況を演出に取り入れたり。制限された環境を逆手にとって、魅力的なものがたくさん生まれている。

2016年に、監督ホン・サンスがお気に入りの役者と一緒に、撮りあげたのが『クレアのカメラ』である。本作が撮影されたのはカンヌ。二人の女優、イザベル・ユペール、キム・ミニは、それぞれ違う作品がコンペティション部門出品されておりカンヌに来ていた。そのわずか数日の時間を利用して、映画を撮ろうというのだ。それもドキュメンタリーではなくフィクションだというから、その構造に興味が湧いてしまう。

映画会社で働くマニ(キム・ミニ)は、カンヌ国際映画祭への出張中に、突然社長から解雇されてしまう。帰国日を変更することもできず、一人カンヌに残ることにしたマニは、ポラロイドカメラを手に観光しているクレア(イザベル・ユペール)と知り合う。クレアは、なんとも不思議な人。二人は、マニが解雇を言い渡されたカフェに行き、写真を撮るのだが......。
リアルなカンヌの裏事情が垣間みられるのは、大きな見どころ。女癖の悪い映画監督、監督と男女の関係にある映画会社の女社長、監督と火遊びしてしまった映画会社の社員など、実在モデルがいるのでは思われる人々が可笑しい。虚実ないまぜの設定でそれぞれの思惑が交錯し、きらびやかな映画祭の裏で繰り広げられる人間模様をユーモアたっぷりに描く。

(文/峰典子)

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