「消えた人たち」は今どう生きている? 年間9万人が行方不明になる日本の現実

- 『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか? (星海社新書 354)』
- 松本 祐貴
- 講談社
- 1,485円(税込)

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警察庁が発表した「令和5年における行方不明者の状況」によると、全国の行方不明者は9万144人。単純計算すると、日本の人口の約1200人に1人が毎年失踪していることになります。そう聞くと、自分の身近なところにも失踪者がいるかもしれないと感じる人も多いでしょう。
今回ご紹介する『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』は、ルポライターの松本祐貴さんが失踪者と残された家族に取材し、「なぜその人は失踪をしたのか」に迫った書籍です。
1章につき1つの失踪エピソードを収録している本書の中でも、とりわけ印象的なのが、最後の6章に登場するカメラマン・酒井よし彦さん(取材当時53歳)です。
幼いころから学校になじめなかった酒井さんは、高校を退学後、ゲイバーで働いて貯めたお金でフランス・パリ行きのパックツアーに申し込みます。しかし現地で泥酔し、目覚めたときには帰国便の出発時刻を過ぎていました。
そこから、一緒に飲んでいた不法滞在のスリ集団に加わり、半年間にわたって生活するうち、図らずも「失踪者」となってしまったそうです。
その後も波瀾万丈の人生を歩んだ酒井さんは、現在、風俗カメラマンとしてスタジオを経営するかたわら、若者のメンタルを支えるNPOで悩み相談を受けています。そこで酒井さんは「辛かったら逃げていい」と伝え続けているそうです。
「失踪はガンガンやるべきです。(略)ずっとそこでグルグル回って悩むぐらいなら、失踪すればいいんです。自分ひとりぐらい、いなくなってもなんとかなりますよ」(本書より)
過激な発言ですが、これは酒井さん自身の体験からくる"逃げ方"の提案であり、この言葉を通じて、「逃げること」そのものを否定しない社会の必要性を問いかけているように感じます。
これからの高齢化社会においては「認知症による行方不明」も見過ごせない課題です。3章では、認知症の妻が突然いなくなった男性のケースを取り上げ、著者は次のように記します。
「警察や行政、地域、そして家族の力を合わせて向き合っていかなければならない。本書がその現実を知る小さな機会となれば幸いだ」(本書より)
「失踪」と一口に言っても、家族との不和から突発的に家を出た人、借金で半グレ団体に追われて逃げた人、実家と連絡を絶っていたら知らないうちに捜索願が出されていた人など、その理由はさまざまです。そこには、一人ひとりの壮絶な人間ドラマがあり、ひっそりと命を絶った人がいる一方で、新しい人生を力強く切り開いている人もいます。
普段はなかなか垣間見ることのない、失踪者の人生を集めたルポルタージュ。今の生活から逃げ出したいと思っている人にとっては、読むことで何かを考えるきっかけになるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]
