習い事漬けや塾のはしご...... 現代育児の闇「ネオ・ネグレクト」の実態

- 『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』
- 矢野 耕平
- 祥伝社
- 1,045円(税込)

- >> Amazon.co.jp
- >> HMV&BOOKS
養育すべき保護者が、食事や衣服等の世話を怠ることを意味する「ネグレクト」。この言葉はすでに世間に浸透していますが、最近では新たな形態の育児放棄が生まれているようです。「ネオ・ネグレクト」は、中学受験指導の現場で30年以上子どもに向き合ってきた矢野耕平氏による造語で、「衣食住に満ち足りた生活をしていても、親がわが子を直視することを忌避したり、わが子に興味関心を抱けなかったりする状態」を意味しています。書籍『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』は、この実態について矢野氏が詳しく解説した一冊です。
ネオ・ネグレクトには具体的にどのようなケースがあるのでしょうか。第一章「東京湾岸タワマン地域の子どもたち」で取り上げられているのが、夜の公園やドラッグストアに「放牧」される子どもたちや、タワマンの玄関先で叫ぶなどの問題行動を起こす小学生のエピソードです。いずれも親がわが子を自身のコントロール下に置くつもりがまったくないというのが特徴で、ここにタワマンエリアの独特な人間関係や子育て事情などが関係してきているのではないかと矢野氏は推察しています。
とはいえ、これは湾岸エリアに限った話ではなく、広域的に見られるものです。それが顕著に現れるのが教育の現場。昨今、中学受験は加熱の一途をたどっていますが、主役の子どもを差し置いてヒートアップしてしまう親が多いのも事実です。
しかし、わが子を直視していないネオ・ネグレクトの親の場合、塾に対して「アウトソーシング」という名の「丸投げ」状態になるのが特徴的です。子どもの受験校についての親と塾との話し合いの場で、「わたし、考えるのが面倒くさいから、先生が全部決めてくださいよ」と言い放つ親などは、その典型例だと言えるでしょう。
「わたしの経営する進学塾をはじめ、民間学童教室などの施設教育機関はサービス業、すなわち、顧客の代行業であるという見方については一概に否定しない。ただし、このようなサービス業に金さえ払えば、あとはわが子を託せばどうにかなる、という考えは軽佻浮薄であると言わざるを得ない」(本書より)
結局、ネオ・ネグレクトの主犯は誰なのでしょうか。著者があげているのが、家庭環境(家族構成)の変化、育児や家事が女性側に押し付けられやすい社会的構造、そして、現代のコスパ・タイパ重視の傾向です。その正体は漠然としている上に複合的な要因が絡み合っていますが、解決の糸口がないわけではありません。終章では、ネオ・ネグレクト減少の道筋についてさまざまな方策が提案されています。
その第一歩となるのが、保護者の自覚です。ただし、ネオ・ネグレクト当事者である親は、自らがそうだとなかなか気づけない場合も多いといいます。本書には、「あなたのネオ・ネグレクト度 チェックリスト」なども用意されているので、まずは皆さん自身で試してみるのもよいかもしれません。本書にも記されていますが、本来、「子育てほど『コスパ』『タイパ』の悪いものはない」(本書より)と言えます。コスパやタイパで考えず、子どもにその都度向き合い、声がけをしていくことの積み重ねこそが、今の子育てに大切なことなのかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]
