運命さえも、旋律に変えて。水の都ヴェネツィアに咲いた、少女たちの調べ――『ヴィヴァルディと私』
『ヴィヴァルディと私』 5月22日(金)より、シネスイッチ銀座 ユーロスペース他全国順次公開
ヴァイオリン協奏曲『四季』の作曲家として、今やその名を知らぬ者はいないアントニオ・ヴィヴァルディ。しかし意外にも、彼の作品は死後200年もの間、歴史の闇に忘れ去られていた。20世紀初頭に偶然発見された大量の自筆譜によってようやく再評価されたという、劇的な背景を持つ。本作『ヴィヴァルディと私』は、そんなバロック音楽の巨匠と、彼が指導した「ピエタ慈善院」の少女たちの絆を描き出した一作だ。
舞台は18世紀、水の都・ヴェネツィア。身寄りのない少女たちが集まるピエタ慈善院では、ヴィヴァルディの指導のもと、日々過酷な練習と、それ以上に情熱的な音楽活動が行われていた。物語は、孤独の中にいた少女チェチリアがヴァイオリンの才能を開花させていく過程と、己の才能が正当に評価されることを渇望するヴィヴァルディの内なる野望を軸に展開していく。音楽に情熱のすべてを捧げ、自らの手で未来を切り拓こうとする師弟の、魂の共鳴が描き出される。
本作の最大の魅力は、何と言っても「音」そのものにある。名曲『四季』の調べが、現代的な感性と融合し、瑞々しくも力強くスクリーンに響き渡る。少女たちが弓を引くたびに、閉ざされた運命が光り輝く未来へと開かれていくような、圧倒的なカタルシスは必見だ。
緻密なリサーチに基づいた歴史再現もさることながら、特筆すべきは少女たちの等身大の葛藤である。恋、嫉妬、そして自立への渇望。ヴィヴァルディとの出会いを通じて彼女たちが「自分だけの音」を見つけていく姿は、現代を生きる私たちの背中も優しく押してくれるだろう。
これは、歴史の片隅に追いやられた女性たちの、魂の解放の物語。水の都に響き渡る、情熱的で、どこか切ない旋律。映画館という最高の音響空間で、心ゆくまでその調べに浸ってほしい。
(文/杉本結)
『ヴィヴァルディと私』
5月22日(金)より、シネスイッチ銀座 ユーロスペース他全国順次公開
監督・脚本:ダミアーノ・ミキエレット
原作:ティツィアーノ・スカルパ「ヴィヴァルディと私」(河出書房新社刊/中山エツコ訳)
出演:テクラ・インソリア、ミケーレ・リオンディーノ、アンドレア・ペンナッキ
配給:彩プロ
原題:PRIMAVERA
2025/イタリア、フランス/110分
公式サイト:https://vivaldi.ayapro.ne.jp
予告編:https://youtu.be/Lfg1rkiYJ-s?si=hHrzVCHdIBLohLDX
2025 INDIGO FILM, WARNER BROS. ENTERTAINMENT ITALIA, MOANA FILMS

