公金を吸い上げる「過疎ビジネス」の実態 地方自治体に迫る巧妙な仕組みを追う

過疎ビジネス (集英社新書)
『過疎ビジネス (集英社新書)』
横山 勲
集英社
1,100円(税込)
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 福島県北端に位置する人口8000人ほどの小さな町「国見町」では、2022年にある事業が始まりました。それは、計4億3200万円の企業版ふるさと納税を財源に、高規格救急車12台を購入して他の自治体にリースするというものです。なぜ、当初予算にもなかった防災関連車両の研究開発に、突然これほどの大金が使われるのか。国見町議会の会議録でこの地方創生事業を知った河北新報の横山 勲記者は不可思議に思い、取材を開始します。そこで浮かび上がったのは、過疎にあえぐ小さな自治体に近づき公金を吸い上げる「過疎ビジネス」の実態。その全貌を追及したのが書籍『過疎ビジネス』です。

 調査の中で明らかになったのは「寄付金還流」と呼べる仕組みでした。これは、事業を受託した備蓄食品製造企業「ワンテーブル」が、企業版ふるさと納税で寄付した企業のグループ会社である救急車ベンチャー「ベルリング」に、開発用車両を発注することで、寄付したはずのお金が事業を介して寄付企業グループに戻ることになるという事業スキームです。事業の委託先は公募型プロポーザルで募ったものの、手を挙げたのはワンテーブル一社のみ。しかも異例の短期間で選定されていること、購入した救急車の車両価格が市場相場の二倍以上であること、事業の仕様書作成にはワンテーブルが深く関与し、ベルリングの車両と酷似した指定が多数織り込まれていたことなどから、これは公的な事業としては透明性・中立性を欠くものであると言わざるを得ません。

 その後、決定的な証拠として、横山氏は情報提供者からある録音データを受け取ります。そこには、当時のワンテーブル社長が寄付金還流スキームについて「超絶いいマネーロンダリング」と語る音声が収められていました。さらに「無視されるちっちゃい自治体がいいんですよ。誰も気にしない自治体」「(地方議員)は雑魚だから。俺らのほうが勉強しているし、分かっているから。言うこと聞けっていうのが本音じゃないですか」などの言葉も......。

 これはまさに「人口減少で活力を失った小さな自治体に地方創生の夢を熱弁して近づき、施策のアウトソーシングを巧みに持ちかけて公金を吸い上げる」「地方の自治体を見下し、食い物にして利益確保を狙う」(本書より)という過疎ビジネスの正体ではないでしょうか。

 横山氏は同時に、「コンプライアンス意識が根本から崩れ、さながら『限界役場』とも言えそうな自治体行政の機能不全」(本書より)にも問題があると指摘。さらには「地方の実情を度外視して予算をばらまくだけばらまき、隙だらけの制度設計を放置した」(本書より)と、国の責任にも言及しています。

 最終的に国見町の地域再生計画の認定は取り消しとなりました。しかし、官民連携の落とし穴は他の地域でも見られることが、本書で明かされています。少子化が進み、過疎化に歯止めが効かない中、真の地方創生には何が必要なのか、国も自治体も私たちも自分ごととして考えるべき時がきているのかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]

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