【無観客! 誰も観ない映画祭 第48回】『ウイラード』
- 『ウイラード [Blu-ray]』
- ブルース・デイヴィソン,エルザ・ランチェスター,アーネスト・ボーグナイン,ソンドラ・ロック,マイケル・ダンテ,ジョディ・ギルバート,ジョーン・ショウリー,ダニエル・マン
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『ウイラード』
1971年 アメリカ 95分
監督/ダニエル・マン
脚本/ギルバート・ラルストン
出演/ブルース・デイヴィソン、アーティスト・ボーグナイン、ソンドラ・ロック、エルザ・ランチェスターほか
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主人公は、気弱で鈍くさい27歳童貞(たぶん)のウイラード。前年に『いちご白書』の主役でブレイクしたブルース・デイヴィソンが、社会不適合者を繊細に演じます。ウダツの上がらないサラリーマンのウイラードは、社長から大量の残業を押し付けられ、1度の昇給もなく「クズ、ヘマ、能なし」と執拗なイジメに耐える屈辱的な日々を送っています。見るからに精力旺盛なパワハラ(セクハラも常習)社長を演じているのは、『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)など数々の作品で存在感抜群の脇役を務めた、ギョロ目がトレードマークのアーネスト・ボーグナイン。そんなウイラードですが、母性本能をくすぐられたのか、新入社員のジョアン(後のクリント・イーストウッドの愛人、ソンドラ・ロック)は、何かと彼の支えになってあげるのでした。
ある日、ウイラードは療養中の母親からネズミ退治を頼まれますが、パン屑を与えると意外に可愛いくて殺せません。友達がいないウイラードは、母親に内緒でネズミ達を地下室で飼い始めます。するとネズミ達の利巧さに気付き、自己流で調教して飼い馴らす事に成功するのです。中でも白い毛並みが美しい個体をソクラテス、知能が高い群れのボスをベンと名付け、自分の部屋に入れたりカバンに隠して会社へ連れて行ったりします。やがて母親が亡くなると、優しいジョアンは「一人暮しは寂しいでしょう」とウイラードにプレゼントを渡しますが、それはよりによって猫でした(あちゃ〜)。ていうか、まだ付き合ってもないのに生き物をプレゼントします? ウイラードは有難迷惑そうな素振りを隠して車でジョアンを家に送りますが、彼女を車から降ろした直後、人の好さそうな見ず知らずのお兄さんに「すみません。この子をちょっと抱いていてください」と猫を渡し、そのままトンズラしちゃいます。ひ、ひどい! ひどすぎませんか⁉ ウイラードの歪んだ本性が顔を出し始めるのです。
そして母親が借金を残し、家を手放さなくてはならなくなりました。ウイラードはあちこちに金の無心に行きますが、人望がないので誰も相手にしてくれません。ウイラードは心を癒そうと地下倉庫へ行きますが、いつの間にかネズミ達は、まさにネズミ算式に激増しています。「餌が足りない」と文句を言うベン(表情で解るのです)に、ウイラードは「黙れ、ボスは俺だ! もう増えるな!」とムチャブリ言う始末。仕方なくウイラードはベン軍団を使って金持ちの家を襲い、住人が驚いている隙に盗んだ金を餌代に充てるのでした。
そして痛ましい事件が起きます。仕事中は倉庫に隠していた2匹のうちソクラテスが女子社員に見つかってしまい、騒ぎに駆けつけた社長が棒でガシガシ突いて殺して(けっこう残酷なシーン)しまったのです。それを止めもせず顔を背け「どうしょうもなかったんだ」と言い訳するウイラードを、責めるように見つめるベンの無言の圧力が怖いです。「わかったよ」とウイラードはベン精鋭部隊を車に乗せ、会社で残業中の社長を襲撃します。社長はギョロ目をさらにギョロッとひん剥き、ウイラードの指図通りに動くネズミ達に驚愕します。ウイラードの「噛み殺せ!」で社長はネズミの群れにたかられ、窓から「ガシャーン!」と路上へ飛び出し絶命するのでした。ちなみにボーグナインやスタントマンは、ネズミの大好物ピーナツバターを体中に塗りたくって頑張ったそうです(これぞプロ根性!)。
さて、ソクラテスの仇を討ち個人的な恨みも晴らしたウイラードですが、使うだけ使って「さよならベン」とその場にネズミ達を放置して、自分だけ車で帰ってしまいます。「え、何で?」と彼の行動が読めないでいると、帰宅したウイラードは地下倉庫のネズミ達を全部、巣箱ごと庭の池に沈めて溺死させてしまいました! な、なんて身勝手な......。ジョアンを誰もいなくなった家に招き入れ、すっかりご機嫌のウイラード、「猫は?」と聞かれても「外で散歩かな?」。だがウイラードの視線の先にはベンが! ウイラードの仕打ちにお怒りの様子で、それを察した彼は筆おろしのチャンスどころではなくなり「今日は、ゴメン」と、不思議がるジョアンを無理やり帰します。直後、ベン率いるネズミ軍団がザザ~ッとウイラードに襲い掛かります。「友達だったじゃないか!」というウイラードの悲痛な叫びは、そっくりそのままお返ししたいベンなのでした。
単なる動物パニック映画に終わらない、サイコスリラー要素を加えて深味を増した『ウイラード』は大ヒットし、翌年に続編『ベン』が製作されます。物語の冒頭は前作を受けた形で始まり、ウイラードの家は警察官や野次馬でごった返しています。新聞記者らの会話で、ウイラードと社長の死体はバラバラに食い千切られていたようです(汗)。さらに被害者は増え町はパニックに陥り、残されたウイラードの日記から一連の犯行はベンの仕業と報道されます。市全域に非常線が張られ、ベンは指名手配されます(刑事ドラマかい!)。現場の近所には心臓疾患で学校に通えないダニー少年が住んでいて、突然部屋に現れたベンを純粋に可愛がり孤独を埋めます。そのネズミがお尋ね者と知っても、ダニーは家族にも警察にも言いいません。それはウイラードの裏切りに遭ったばかりのベンにとっても、心地よいものでした。しかし、ついにダニーとベンの関係がバレ、強面刑事は心臓病の子供を小突きながら「ネズミの居場所を吐け!」。それ、問題行為!
やがて地下道にあるベンのアジトが発見され、火炎放射器による一斉駆除が始まります。ラスト、まだ日本では知名度が低かった当時13歳のマイケル・ジャクソンによる『ベンのテーマ』が美しくも哀しく流れる中、瀕死のベンがダニーの部屋に辿り着きます。ダニーは「絶対死なせない。助けてやるからな」と観客の涙を誘いますが、ベンは殺人ネズミ軍団のボスである事もお忘れなく。2003年に『ウイラード』と『ベン』を合わせたリメイク作品『ウイラード』が作られ、こちらは陰鬱なサイコホラーになっています。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。