もやもやレビュー

『トスカーナの幸せレシピ』をみて微力ながらに個性と生き方と教育を考えた。

トスカーナの幸せレシピ(字幕版)
『トスカーナの幸せレシピ(字幕版)』
フランチェスコ・ファラスキ,アンドレア・ボレッラ,フランチェスコ・ファラスキ,ヴィニーチョ・マルキオーニ,ルイジ・フェデーレ,ヴァレリア・ソラリーノ
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 本作は2018年のトスカーナを舞台にしたイタリア映画です。
 共同経営者に店の権利を奪われたことで暴力事件を起こし服役していた元一流シェフのアルトゥーロは、社会奉仕活動として自立支援施設でアスペルガー症候群の若者たちに料理を教えることになります。

 その生徒の中に、少しの味見で食材やスパイスを完璧に言い当てられる「絶対味覚」を持つ青年グイドがいました。アルトゥーロの指導により料理の腕をあげたグイドは、「若手料理人コンテスト」に出場することになります。本作は、会場に向かう道中やコンテストを通しての二人の交流が描かれます。

 歳も育った環境も何もかも違う二人がうまくやっていけるか、旅のスタートから不安がつきまといます。グイドは彼の祖父の車しか安心して乗れないという事情があり、速度もだせず、車中でも同じ音楽ばかりエンドレスで流し......。その後もアスペルガー症候群特有のものだとも思われる特徴が描かれます。 
 例えば、グイドには、寝る前に携帯や手帳など所持していたものを真っ直ぐ置いて寝る習慣があったり、宿泊予定のホテルの部屋の、他の人では分からないような臭いが気になってその部屋では泊まれないほどだったり、アルトゥーロの言う料理の味付けの"適当"や"程々に"の意味が全く理解できなかったり...。
 しかし、アルトゥーロは障害によるものではなく、グイドの個性として受け入れていきます。

 こうして二人の距離が縮まった中で迎えたコンテストで、グイドは見事決勝まで勝ち進みます。
 決勝では、また二人の堅い絆を印象づけるシーンがありました。料理の仕上げにココアパウダーをかけなければいけないという所で、勝利をとるのか、それとも勝たずとも師のアルトゥーロの教え(「世界に必要なのは完璧なトマトソースだ。チョコソースじゃない」)をとるのかと...。
 ネタばれになってしまうのでその先は控えますが、障害があるなしではなく、そこには人としての生き方として、グイドの格好良い姿しかありませんでした。

 ちなみに、イタリアでは、精神病院や特別支援学級がほぼ存在せず、障害の有無に関係なくすべての子どもたちが同じ環境で一緒に学ぶことができるインクルーシブ教育が推進されているとか。
 色々な面でとても考えさせられる映画でした。

(文/森山梓)

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