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写真は心を映す鏡『明日を綴る写真館』

『明日を綴る写真館』6月7日(金)全国公開

今回紹介する作品は、どうすることもできないまま誰もが抱えている"想い残し"をテーマに、年齢も考え方も全く違うふたりが紡ぐ圧倒的に美しくて優しい感動作となっている。

日本を代表する名優・平泉成。彼が60年に渡る俳優人生の中で初めて演じる"主人公"は、自身の趣味である写真撮影ともリンクするベテランカメラマン役。そんな平泉演じる役と好対照の相手役には、次代のエンタテインメント界を担う注目グループ「Aぇ! group」に所属し、俳優としての活躍が期待される佐野晶哉が抜擢された。

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さびれた写真館を営む無口なカメラマン・鮫島(平泉成)。彼の写真に心を奪われた気鋭カメラマン・太一(佐野晶哉)は華々しいキャリアを捨て、弟子入りを志願する。家族とのコミュニケーションすら避けてきた太一は、訪れる客と丁寧に対話を重ね、カメラマンと被写体という関係を超えてまで深く関わる鮫島の姿に驚きを隠せない。人々の抱える悩みや問題のために必死に奔走する鮫島に振り回されながらも、自分に足りないものに気付き始める太一。同時に、鮫島とその家族にも目を背けてきた"想い残し"があることを知る。変わりゆく太一が、悔いのない未来のために踏み出した一歩。その先に続く、思いもよらない奇跡に涙する――。

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本作の中で「写真」というアイテムが鍵となってくるのだが、写真というものの裏に隠れたその写真を撮影しているカメラマンの生き様が見え隠れしているところがとても素敵だった。確かに、素敵な写真を撮影しているプロのカメラマンは被写体がなんだったとしてもベストの状態にとるテクニックや技術もあるのだがそれとは別に心ゆるせる相手になる技術みたいなものも持ち合わせている。
素人でも素敵な写真を撮ることが出来る。それはきっと被写体が家族やペット、身近な人の写真になるのだろうと思った。

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太一は景色や物を撮るのは上手だけど、人物撮影が苦手だった。だけど、太一は人が嫌いなわけではなくゆっくりと時間をかけて一人一人の人を知っていくタイプの人間なのだと少しずつわかってきて親近感が湧いた。
有名な賞を獲っていた太一だが、街の写真屋さんへの弟子入りを志願する。自分のキャリアを捨ててまで自分自身と向き合う姿はとてもかっこよかった。そしてそんな太一を見守ってくれている街の人達の優しさにも心温まった。

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写真はその瞬間に撮らないと『その時』は2度と帰ってこない。後悔してからではもう遅い。産まれた時の写真。入園、入学、成人、結婚式...人生の転機ともいえるような瞬間の写真はあると良いと思う。

フィルム写真からデジタルへと時代の変化にともなってどんどんと撮影するということ自体は身近なものになっている。それでも、人生の節目にはカメラマンに最高の一瞬を切り取ってもらいたい。
その時の思い出も一緒に蘇ってくるような写真を撮ってくれる信頼出来る街のカメラマンが自分のそばにもいて欲しいと思う作品だった。

(文/杉本結)

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『明日を綴る写真館』
6月7日(金)全国公開

企画・監督・プロデュース:秋山純
原作:あるた梨沙「明日を綴る写真館」(BRIDGE COMICS/KADOKAWA刊)
出演:平泉成、佐野晶哉(Aぇ! group)
配給:アスミック・エース

2024/日本映画/104分
公式サイト:https://ashita-shashinkan-movie.asmik-ace.co.jp/
予告編:https://youtu.be/ryp2hx3Jbfg
©2024「明日を綴る写真館」製作委員会 ©あるた梨沙/KADOKAWA

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