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イアン・マッケランが演じる恐れられた演劇批評家『The Critic(原題)』

『The Critic』 日本公開未定

 『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどで知られる名優イアン・マッケランが出演する新作『The Critic(原題)』。昨年、トロント国際映画祭にて上映された本作は、ロッテントマトで『レッド・ライディング Ⅲ:1983』が高評価を得たアナンド・タッカー監督の最新作で、大御所イアンの圧巻的演技に惹き込まれた一本でした。

 本作の舞台は1934年のロンドン。イアン演じるジミー・アースキンは、辛辣な批評で知られる有名な演劇批評家で、街で最も恐れられている存在。そんな彼は、女優ニーナ・ランドの酷評を掲載し、彼女を打ちのめしてしまいます。そんな彼に危機が訪れたのは、新聞社のオーナーが退任したこと。後任にデイヴィッド・ブルック(マーク・ストロング)が就任したことにより、ジミー、ニーナ、デイヴィッドの3人の間に冷ややかな力関係が生まれ......。

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 本作の全体的なトーンは暗いのですが、そのおかげで衝撃的なストーリーを引き立ててくれています。ストーリーの中で一際目を引くのは、やっぱりイアンの演技。彼は、前述した『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに加え、『X-MEN』シリーズなど数多くの大ヒット映画に出演しています。その一方で、1970年代には『ハムレット』でハムレット役を好演。またロイヤル・ナショナル・シアターやロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなどで多くの賞を受賞するなど、自身も輝かしい演劇キャリアを持っています。そんな彼が辛口演劇批評家を演じることは、本当に興味深いことでもあります。

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また、イアン演じるジミーは、同性愛者であることが許されない時代に生きるクィアでもあるのです。自身も同性愛者であることをカミングアウトしているイアンが、このジミーというキャラクターに深みを与え、かなり魅力的な悪役キャラを作り上げているのが◎。そんな本作、間違いなく、イアンの代表作の一つになると言っていいのではという体感でした。日本での公開は今のところ未定ですが、公開が決定すればきっと話題になることでしょう。

(文/トキエス)

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『The Critic』
日本公開未定
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