もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2023年08月号

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』 8月18日(金)より新宿バルト9ほか全国公開

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』二十四回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
08月公開の映画からは、この四作品を選びました。


『はこぶね』(08月04日公開)
公式サイト:https://hakobune-movie.com/
予告編:https://youtu.be/E1_eEnGMWek

場面写真1.jpg 若手作家の登竜門となる田辺・弁慶映画祭、TAMA NEW WAVEでのグランプリなど、6冠を獲得した大西諒監督による初長編作『はこぶね』。
 東京から地元の港町に帰ってきていた大畑碧(高見こころ)は同級生の西村芳則(木村知貴)と再会するが、彼は数年前の事故で視力を失っていた。
「だから、面倒見てやらないよって。元々あんたの面倒を見る義理はないんだから」と伯母(内田春菊)から西村が言われているシーンや、祖父らしき男性と西村が一緒にいる場面なども予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。漁港で働く人たちの姿や西村が友人と一緒にビールを堤防で飲んで笑い合っているシーンが予告編にあり、「はこぶね」というタイトルからも海が重要な場所であり、テーマに関わっているはずです。西村は叔母や祖父との関わりはあるものの、一人で暮らしているようです。そういう意味では孤独な彼の姿に地元に戻ってきた大畑は居場所を失っている自分を重ねるのかもしれません。
「ノアのはこぶね」に乗った者たちだけが生き残ったと言う話がありますが、窮屈だけ美しいこの港町はどこにも行けない西村にとっては「はこぶね」そのものであり、大畑にとってここはかつて旅立った出発点なので、再びここから出ていくラストシーンになるのではないでしょうか?

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『はこぶね』
2023年8月4日よりテアトル新宿ほか全国順次公開
配給:空架 soraca film
©︎ 2022 空架 -soraca- film

『バービー』(08月11日公開)
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/
予告編:https://youtu.be/PM0A4pT-vzY

rev-1-BAR-TT3-0030r_High_Res_JPEG.jpg グレタ・ガーウィグ監督がファッションドール・バービーの世界を実写映画化した『バービー』。ピンクに彩られたバービーランドではバービー(マーゴット・ロビー)が恋人のケン(ライアン・ゴズリング)とハッピーな日々を過ごしていた。
 ある日、バービーが「"死ぬ"ってどういうことなの?」と言った瞬間に踊っていた人たちが止まってしまう場面や、バービーの踵が地面についているなど、バービーランドで異変が起こり始めるのを予告編で見ることができます。バービーとケンは真実を知るために「人間の世界」へ向い、そこで「真実」を知ることになるようです。
 ここからは妄想です。予告編を見ると、バービーたちが「人間の世界」で実体を持って、さらに人間と交流をしていくようです。やはり自分たちがオモチャであるという真実を知ってしまうはずです。そう考えると「リアル『トイ・ストーリー』」とも言えるかもしれません。
「可能性は無限よ」と言っているバービーの姿もあるので、彼女とケンは陰鬱な気持ちで日々を過ごし、夢を諦めている人間たちを励ましていくのでしょう。しかし、それは上手くいかず、最終的にはバービーは人間たちをバービーランドに連れて行くという、「ハーメルンの笛吹男」のようなのような驚きのラストになっているのではないでしょうか?

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『バービー』
8月11日(金)全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(08月18日公開)
公式サイト:https://cotfmovie.com/
予告編:hhttps://youtu.be/QCr7zeNDv0k

【メイン】COTF.jpg 鬼才デヴィッド・クローネンバーグによるカンヌ国際映画祭で「退席者」が続出した最新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』。"痛み"の感覚が消えた世界で、自らの体内に新たな臓器を生み出す"加速進化症候群"のアーティスト・ソール(ヴィゴ・モーテンセン)。そのパートナーであるカプリース(レア・セドゥ)がタトゥーを施して、臓器を摘出するショーが人気を呼んでいた。
「人間ではないものに進化してる」という男性のセリフであったり、カプリースが顔に傷がある女性に対して「私の顔も切り刻みたいの」と言っている場面も予告で見ることができます。
 ここからは妄想ですが、予告編だけでもかなりショッキングな映像が続きます。人間の皮膚を切り裂いていくシーンや、新しい臓器を体内で新しいテクノロジーによって作り出して取り出すという行為は、残虐的にも見えますが、どこか神秘的で神話の一場面のようにも見えてきます。
「手術は新たなセックスよ」という言葉、「体内に何があると?」「宇宙...」というやりとりも予告編にあります。セックスは快楽でもありますが、新しい何かを生み出す行為でもあるので、ソールの新しい臓器がまるでビッグバンのように膨らんでいき、爆発して新しい宇宙を誕生させる、という破壊と再生を感じさせる終わり方かもしれません。

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『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
8月18日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES
© Serendipity Point Films 2021

『春に散る』(08月25日公開)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/harunichiru/
予告編:https://youtu.be/DAt87RR8yFk

main.jpg ノンフィクション作家である沢木耕太郎の小説を瀨々敬久監督が映像化した『春に散る』。元ボクサーの広岡(佐藤浩一)の前に、ボクサーとして頂点を目指す黒木(横浜流星)が現れる。「あんたのボクシングを教えてほしい。全部ゼロから。お願いします」と彼は頭を下げるが広岡は断る。しかし、それを見ていた広岡の友人が「テストしてやろうじゃねえの、どうせ暇なんだしよ」という一言で、師弟関係が始まるようです。
 トレーニングを積んでいく黒木だが、彼の目には異変が起きていた。広岡は黒木にチャンピオンの中西(窪田正孝)との試合を諦めるように諭すが、黒木の「今しかねえ、今しかねえんだよ!」という言葉によって彼を送り出すことを決める。
 ここからは妄想です。予告編ではタイトルに「春」という言葉があるように桜が何度も出てきます。桜散るというワードが脳裏をよぎります。やはり黒木は中西に負けてしまい、そこから彼の新しい人生が始まるという終わりかもしれません。
 今作で黒木を演じた横浜流星さんは今年6月にボクシングプロテストを受験して、C級ライセンスを獲得したというニュースがありました。もしかすると現実のほうで彼がチャンピオンになる物語が、いや、俳優さんだからプロの試合は無理かもしれませんが、現実が妄想を軽く超えていきますね。

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『春に散る』
8月25日(金)全国公開
配給:ギャガ
©2023映画『春に散る』製作委員会


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。

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