もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2023年07月号

映画『アイスクリームフィーバー』(7/14公開)より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊予告編妄想かわら版』二十三回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、映画館で観てもらえたらうれしいです。
07月公開の映画からは、この四作品を選びました。

***

『Pearl パール』(07月07日公開)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/pearl/
予告編:https://youtu.be/zGHM2Wan3rw

pearl_main1s.jpg A24の最新作はタイ・ウェスト監督『Pearl パール』。今作は昨年公開された『X エックス』の前日譚となっている。また、A24初の三部作として注目されており、次作の完結編『MaXXXine』が製作中とのこと。
 病気の父親と敬虔で厳しい母親と一緒に農場で暮らすパール(ミア・ゴス)。「世界中が知る大スターになるわ」とパールが歌い踊っている場面や、「君ならスターになれるよ」と劇場関係者から彼女が言われている場面も予告編で見ることができます。その後、パールはオーディションを受けに行くなど夢に向かって動き出します。「絶対にこの農場から出さない」という母からの言葉や、パールが斧を振り落とそうとする場面などもあり、夢を否定された彼女がシリアルキラーになっていく姿が描かれるようです。
 ここからは妄想です。とは言え、前作に出てくる高齢女性の殺人鬼が老いたパールであり、彼女がなぜそうなってしまったのかを今作では描いているはずです。スターを夢見ていた一人の女性の絶望と怒りが、あるラインを越えてしまう。それは特別なことのように思えるかもしれませんが、私たちのすぐ近くでも起きていても何ら不思議ではありません。スプラッターホラーとして楽しみながら、彼女の絶望も味わうことになりそうです。前日譚はすでに登場人物がどうなったかわかっているので妄想しにくいですね。

pearl_main2.jpg

『Pearl パール』
7月7日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© 2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

『アイスクリームフィーバー』(07月14日公開)
公式サイト:https://icecreamfever-movie.com/
予告編:https://youtu.be/amxyQIfyOm8

『アイスクリームフィーバー』メイン写真A.jpg 川上未映子の原作小説を千葉徹也監督が映像化した『アイスクリームフィーバー』。アイスクリーム屋で働いている常田菜摘(吉岡里帆)は客の橋本佐保(モトーラ世理奈)になにか運命的なものを感じる。菜摘のバイト仲間の桑島貴子(詩羽)はまだ高校生のようです。そして、客の一人である高嶋優(松本まりか)は、姪っ子との話から実姉と仲違いを長年しているのがわかります。そんな四人の女性たちの「小さなラブストーリー」が描かれるようです。
 ここからは妄想です。予告編の中で「これは生涯に一度の恋だなって恋したことあります?」という貴子のセリフの後に、菜摘と貴子がお店で一緒に立っている場面となり、その後には菜摘が雨の中を濡れながら「私アイスクリーム作れるよ」と佐保に言うシーンに続きます。もしかしたら、これは貴子から菜摘へ、菜摘から佐保へという片思いの流れを表しているのかもしれません。優だけはそれを客として客観的に見ながら、実姉との関係修復に向かっていく。
 女性同士の恋心であったり、連帯や友情がメインのシスターフッドを描いた作品なのでしょう。一夏のラブストーリーということなので、ラストシーンはその季節が過ぎ去ったアイスのような冷たい、雪の降り続ける東京を菜摘が一人で歩いているという終わりではないでしょうか?

『アイスクリームフィーバー』メイン写真B.jpg

『アイスクリームフィーバー』
7月14日(金)よりTOHO シネマズ日比谷、渋谷シネクイント他にて全国ロードショー
配給:パルコ
©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会

『PLASTIC』(07月21日公開)
公式サイト:http://plastic-movie.jp/
予告編:https://youtu.be/zLe_PeSVr20

★plastic_main.jpg 海外の映画祭でも評価され、自身も脚本家や映画監督として活動している宮崎大祐が架空のアーティスト「エクスネ・ケディ」をモチーフに作り上げた青春映画『PLASTIC』。
 コズミックなサウンドで70年代に世界を席巻したアーティスト「エクスネ・ケディ」。彼が消息を絶ってから半世紀近く経った2018年、女子高生のイブキ(小川あん)は、自分と同じく「エクスネ・ケディ」ファンでミュージシャンの少年ジュン(藤江琢磨)と出会って恋に落ちる。そして、4年後の2022年の東京へ物語の舞台は移って展開していく。イブキがライブハウス下北沢ロフトの看板を見上げている場面も予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。イブキがライブハウスで見ているのはかつて恋に落ちたジュンなのでしょう。自作のオリジナル曲を演奏して歌っているジュンは、途中で客席にいるイブキの存在に気づく。そして、彼女だけに伝わるように「エクスネ・ケディ」の好きだった曲を演奏するシーンで物語が終わっていく。
 あるいはジュンは二代目として、継承者として「エクスネ・ケディ」と名乗って活動しているという展開もありそうです。その場合は、ライブの終わりにイブキはジュンとして自分の音楽をやってほしいと告げることで、彼を「エクスネ・ケディ」から解放するそんなラストもありえるかもしれません。

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『PLASTIC』
7月14日(金)より名古屋・伏見ミリオン座にて先行公開、7月21日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:boid、コピアポア・フィルム
©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

『658km、陽子の旅』(07月28日公開)
公式サイト:https://culture-pub.jp/yokotabi.movie/
予告編:https://youtu.be/49-Prwd5R_Q

★メインRGB.jpg 菊地凛子主演×熊切和嘉監督によるロードムービー『658km、陽子の旅』。20年以上断絶していた父が亡くなった知らせを受けた娘の陽子(菊地凛子)。彼女は東京から故郷青森へと向かう。しかし、途中で何らかのトラブルが起きてしまい、青森までヒッチハイクをしたり、徒歩で向かうことになる。
 父の出棺は明日正午となっており、あと12時間で彼女は青森の葬儀場までたどり着けるのか、という物語のようです。また、若き日の父の幻(オダギリジョー)と陽子が一緒にバスに乗っているシーンも予告編で見ることができます。
 ここからは妄想です。予告では「いろいろと手遅れになっていて、もう取り返しがつかなくなっていて」という陽子のセリフがあります。多くのことを諦めてしまって絶望の手前にいるような陽子の顔も印象的です。おそらく陽子は私と同じくロスジェネ最後期に位置する年齢でしょう。この世代が抱えている虚無感がそこにしっかり出ているように感じました。
 そんな虚無をわずかでも和らげてくれそうな出会った人たちとの交流も予告編で見ることができます。すでに諦めてしまったような陽子の心が少しでもプラスに動いていく姿が見たいと思いました。そして、出棺に間に合って、泣いたり叫んだりして感情を露わにする陽子が見たい、そうなってほしいと願います。

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『658km、陽子の旅』
7月28日(金)よりユーロスペース、テアトル新宿ほか全国順次公開
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
©2022「658km、陽子の旅」製作委員会


文/碇本学

1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。

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