もやもやレビュー

思い通りになる恋愛は幸せ?『ルビー・スパークス』

ルビー・スパークス [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
『ルビー・スパークス [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]』
ポール・ダノ,ゾーイ・カザン,アネット・ベニング,アントニオ・バンデラス,ジョナサン・デイトン,ヴァレリー・ファリス
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
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 2022年の『THE BATMAN -ザ・バットマン-』でリドラー役を演じたことでも記憶に新しい実力派俳優のポール・ダノ。彼は過去に、ダニエル・ラドクリフが演じた死体との奇妙な物語『スイス・アーミー・マン』や、長年愛され続けている名作『リトル・ミス・サンシャイン』などに出演していますが、そんな彼が主演の映画で、私が個人的に強くお勧めしたいのが『ルビー・スパークス』。若くして成功した作家が、新たに物語を描き始めると、それが現実になるというストーリーです。

 ポール・ダノ演じる小説家のカルヴィンは、19歳の時にニューヨーク・タイムズのベストセラー作品を生み出すほどの"天才"的デビューを果たしましたが、それ以来スランプ状態で、何も書くことが出来ずにいました。そんな中、セラピストからアドバイスを受け、古いタイプライターを取り出し、夢に出てきた女性、ルビー・スパークス(ゾーイ・カザン)について書き始めます。そして翌日目を覚ますと、ルビーがなんとキッチンに。「ついに病気になってしまった...」「これは夢だ...」とパニックになるカルヴィンでしたが、ルビーが他の人にも見えることから、実現していることを理解し、カップルとしての生活を始めます。

一方、ルビーは、自分が架空の人物で、自分の行動や気持ちが、カルヴィンの執筆に左右されていることに気づいていません。よく恋愛小説で描かれるような「いつまでも幸せに」という願いをカルヴィンも望んでいますが、男女が一緒に暮らすと、そうはいきません。時にカルヴィンはルビーが自分のもとから離れていく恐怖から、こっそりと小説に「カルヴィンなしでは生きていけない」などを書き足し、自分の不安や不満を消し、"完璧"な関係を作り出していました。

しかし、幸せはいつまでも続かず。後半には、かなり心に突き刺さるシーンがあり(このシーンのゾーイの白熱の演技に注目)、なんでも自由に操ることができる恋愛は「実は酷なものなのだ」ということを突きつけられました。そして、恋愛は、他人をどうこう操ることが出来ないからこそ、その不完全な部分が美しいのだとも実感。私たちはパーフェクトな関係を望みがちですが、この作品を通して、相手のダメなところも愛したくなりました。

 ちなみにポール・ダノとゾーイ・カザンは、プライベートでも長年カップル。本作はゾーイが脚本と製作総指揮を務め、ポールも製作総指揮に名を連ねています。実力派俳優カップルが生み出す、不思議な物語は必見です。

(文/トキエス)

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