もやもやレビュー

もしもの自分を思い描く傑作『ジュリア(s)』

『ジュリア(s)』 5月5日(金)公開

久しぶりにこんなに細部までこだわり抜いた映画に出会えた。

2052 年パリ。80 歳の誕生日を迎えたジュリアはこれまでの充実した人生に満足しつつも、過去を振り返り自分が過ごしていたかもしれない別の人生に想いを馳せていた。ピアニストを目指していた 17 歳の秋。ベルリンの壁崩壊を知り友人たちとベルリンへ向かった日、もしバスに乗り遅れなかったら? 本屋で彼に出会ってなかったら? シュー マン・コンクールの結果が違ったら? 私が運転していたら? ジュリアが頭に描いたのは、そんな何気ない瞬間から枝分かれしていった 4 つの人生。そのどれもが決して楽ではないけれど、愛しい人たちとのかけがえのない日々で満たされていて眩しい。果たして、ジュリアが選び取った幸せな"今"につながるたった一つの人生とは?

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人生においてもしもこの時に違う選択肢をしていたら、どんな自分がいたのか。自分がいる世界の中に「もしもの自分」が存在しているかのように見せるつくりで描かれている。「もしもの自分」が、まったくの別世界として描かれていないところに新しさを感じた。

もしも人生のあの時に違う選択をしていたら、今の自分とは違う人生があったのではないか。そう思う瞬間は、きっと誰にでもあるはずだ。
筆者の場合も、進路や居住地、結婚相手......といくつかある。もしも違う進路を選んだら今とはまったく違う仕事に就いていたかもしれない。住む場所が違ったら、現在仲のいい友達には出会うことはなかった。違う人と結婚していたら今いる子供はいなかった。人生を思い返せば、分岐点はいくつもある。

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本作では80歳になったジュリアが想像する4つの分岐点を、若い頃から順に巡っていく。
分岐した他のジュリアの人生も描かれているが、どれも順風満帆というわけにはいかない。80歳のジュリアへと繋がるジュリアは、いったいどの人生を生きたジュリアなのかが見どころとなる。

鑑賞中、いつの間にか映画の世界に入りこんで、2つの選択肢のこっちのジュリアであって欲しいと願うような気持ちになったりと、どっぷりと沼にハマっていた。

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複雑な構造の作品だが、現実として起こった1つの事実と寄り添う形でもう1つのストーリー、もう1人のジュリアがいたのだと思うと、とても素敵な作品だった。
ジュリアの人生を見ながら、心の中で自分の人生をも振り返る人も多いだろう。鑑賞後、自分の人生の分岐点をいくつか思い描いて、余韻にひたって欲しい。

(文/杉本結)

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『ジュリア(s)』
5月5日(金)公開

監督:オリビエ・トレイナー
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、ラファエル・ペルソナ、イザベル・カレ、グレゴリー・ガドゥボワ、エステル・ガレル、セバスチャン・プードル、ドゥニ・ポダリデス、マルクス・グレイザー
配給:クロックワークス

原題:Le tourbillon de la vie
英題:JULIA(s)
公式サイト:https://klockworx.com/movies/13045/
予告編:https://youtu.be/486hsa_liCg
©WY PRODUCTIONS-MARS FILMS-SND-FRANCE 2 CINÉMA

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